退社に批判あがるも、結果的に円満退社

その後、2人は東京での取材旅行をきっかけに仲を深めたという。その東京取材がきっかけだったのかは定かではないが、暢さんは議員事務所に秘書としてスカウトされ、高知新聞社を去ったのだった。

「先に東京へ行って待ってるわ」

そう言い残した暢さんを追い、やなせさんも漫画家を目指し上京を決意した。

会社を去るやなせさんに、社内では「女を追いかけるのか」「腰かけ」など批判の声もあがったというが、重鎮社員が「やなせ君は大志を抱いて上京する。わが社としては快く送り出そう」と激励してくれたことで、結果的に“円満退社”となり、やなせさんが亡くなるまで高知新聞社とは良好な関係が続いたという。

「やなせさんは入社後、1年ほどで暢さんを追いかけて退社してしまいますが、その後も高知新聞にエッセーを連載してくれたり、紙面で使用するご当地キャラクターに名前をつけてくれたりと、とても気さくな方でした。

亡くなって10年以上が経ちますが、高知新聞社の職場が朝ドラの舞台になるなんて、とても誇らしいし、光栄です。やなせさんが恩返ししてくれたのかなって気持ちで毎朝楽しみに視聴しています」(高知新聞社の浜田成和・メディア事業局長、以下同)

そんな高知新聞では、紙面でもウェブでも大々的に『あんぱん』特集を実施中。さらに担当記者が社員らと週末に1週間の放送を振り返る『たまるかラジオ』もユーチューブなどで公開中だ。

「高知を舞台にした2023年度前期『らんまん』でも特集を組み、とても読んでいただけたのですが、今作の『あんぱん』はそもそも弊社が舞台とあって、『らんまん』以上に読まれています」

今後、高知新報を舞台に、のぶと嵩がどんなドラマを繰り広げるのか。期待したい。

連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜から土曜8:00~8:15 NHK総合ほかにて放送
連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜から土曜8:00~8:15 NHK総合ほかにて放送

参考書籍/ムック本『やなせたかし はじまりの物語:最愛の妻 暢さんとの歩み』(高知新聞社編集)

取材・文/木下未希