父と兄、二人からの性暴力に遭い妊娠するもどちらの子かわからない…幼少期から暴力で支配された名家の姉妹の苦悩「これ以上父に汚されたくない」
家族はときに性と暴力の加害者と変貌することもある。慈善活動家として、地元の人々から尊敬を集める名士の父は機嫌がよければ娘に性的な行為を強要し、機嫌が悪ければ母や長男に暴力を振るった。挙句、娘のお腹に宿った命は父と兄、どちらのものかわからないという。
書籍『近親性交 語られざる家族の闇』より一部を抜粋・再構成し、複雑すぎる家庭の事情。そして同じような境遇で悩む人への希望の言葉を紹介する。
近親性交 語られざる家族の闇 #3
ふたりの加害者から性暴力を受けているケース
「私の子であることには変わりないから……」
恵は母親になって、随分と強くなったと感じた。
「母には秘密にしよう」
「もちろん。墓場まで持って行くつもり」
本件のように、父と兄、祖父と父など、ふたりの加害者から性暴力を受けているケースも存在している。
武山家の子どもたちは、幼い頃から父は地元の名士であり絶対的な権力者だと洗脳されており、他の大人を頼るといった選択肢は奪われていた。
「父は人を信じ込ませることに誰よりも長けていました。とても、誰かに相談するなんてできません。こういう親から被害を受けたらまず、逃げること。告発できるとしたら、安全な生活が確保されてからでしょう。でも、諦めさえしなければ、いつかチャンスは訪れるし、加害者は裁かれると信じています。どんな状況にあっても、諦めないで下さい」
姉妹は、絶望の淵にいる人々に向けてそう訴えている。
写真はすべてイメージです 写真/Shutterstock
2025/6/2
1,100円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4098254934
それは愛なのか暴力か。家族神話に切り込む
2008年、筆者は日本初となる加害者家族の支援団体を立ち上げた。24時間電話相談を受け付け、転居の相談や裁判への同行など、彼らに寄り添う活動を続けてきた筆者がこれまでに受けた相談は3000件以上に及ぶ。
対話を重ね、心を開いた加害者家族のなかには、ぽつりぽつりと「家族間性交」の経験を明かす人がいた。それも1人2人ではない。筆者はその事実にショックを受けた。
「私は父が好きだったんです。好きな人と愛し合うことがそんなにいけないことなのでしょうか」(第一章「父という権力」より)
「阿部先生、どうか驚かないで聞いて下さい……。母が出産しました。僕の子供です……」(第二章「母という暴力」より)
「この子は愛し合ってできた子なんで、誰に何を言われようと、この子のことだけは守り通したいと思っています」(第三章「長男という呪い」より)
これほどの経験をしながら、なぜ当事者たちは頑なに沈黙を貫いてきたのか。筆者は、告発を封じてきたのは「性のタブー」や「加害者家族への差別」など、日本社会にはびこるさまざまな偏見ではないかと考えた。
声なき声をすくい上げ、「家族」の罪と罰についてつまびらかにする。