兄からも性行為を強要されて

ところが、家ではまた事件が起きていた。愛が家に着くと、母親はすぐさま愛を妹の恵の部屋に連れて行った。久しぶりに見た恵は、以前に比べてだいぶふっくらとしていたのだ。

「まさか……」

妹は妊娠していた。もしかして妹も父に……。愛は鳥肌が立つのを感じた。

「お兄ちゃんの子よ……」母親の言葉に、愛は少しほっとしていた。母は、父が娘に性暴力を働いていることは知らなかった。暴力は振るうが、娘にまで手を出す男だとは思っていない。もし、妹のお腹の子が父の子だったとしたら、母はその事実に耐えられないだろう……。

「もう随分お腹が大きいようだけど、どうするの?」

父と兄、二人からの性暴力に遭い妊娠するもどちらの子かわからない…幼少期から暴力で支配された名家の姉妹の苦悩「これ以上父に汚されたくない」_2

母親はどうすべきか迷っている様子だったが、

「産むつもり」恵の意志は固かった。

「まあ、理由はなんとでもつけられるだろう」

と、父親の信夫も了承済みだった。

愛は久しぶりに、随分とやつれた信夫の姿を見て密かに驚いていた。信夫はこのところ体調が悪く、通院しているのだという。

しばらくして、信夫は癌と診断され手術を受けることになった。一時は回復したように見えたが、転移が見つかり、余命宣告を受けることになった。

母親は信夫が死んだ後は自宅を処分し、恵と子どもと一緒に都市部で生活する計画を立て始めていた。この話を聞いた瞬間、愛は夫との離婚を決意した。結婚は、武山家から逃げるための手段であり、夫に愛など感じてはいなかったからだ。

信夫の葬儀を無事に済ませると、愛は母親と恵の子と4人で暮らすようになった。産まれてきた子は健康に、すくすくと育っている。

しばらくして母親が倒れ、入院することになった時、初めて愛は恵から真相を聞くことになった。

子どもの父親は、信夫の可能性があるというのだ。

愛が家を出た後、父親の性暴力は妹に向けられていた。兄からも性行為を強要されており、どちらの子どもかはわからない。