行政対応ようやくも、介護現場のカスハラ相次ぐ

介護現場でカスハラの被害を受けているのは、介護士だけではない。

日本介護支援専門員協会は4月、介護現場におけるカスハラの実態調査結果(有効回答数1293人)を公表した。介護現場で働くケアマネージャーの33.7%が、過去1年間で何らかのカスハラを経験していたことが明らかになった。

ケアマネージャーとは、介護サービスの利生者のために、介護の内容や費用などの計画を立てる管理者を指す。

被害内容については(複数回答)、①「言葉の暴力や精神的な攻撃」(70.6%)、②「過度な要求や不当な要求」(55.7%)、③「不当なクレームや根拠のないクレーム」(43.8%)、の順に多かった。

カスハラをした人は、①利用者の主介護者やキーパーソン(72%)、②利用者本人(44%)、③サービス事業所や取引先(14%)となった。

カスハラを受けた際の対応については、「管理者や上司に報告や相談をした」(60.8%)ともっとも多いものの、報告や相談の結果については「やや満足」(20.6%)が多く、「やや不満」(20.2%)と続き、評価が分かれた。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

行政も介護職のカスハラ問題へ対応を進めている。

東京都は4月、介護職員を対象にした相談窓口を開設した。利用者やその家族などから、叩かれたり、ものを投げられたりなどの暴力行為や、セクハラ発言を受けた際などに専門の相談員に無料で相談できる。24年には横浜市でも相談窓口が開かれ、茨城県でも在宅介護職員を対象にした窓口を開設するなど、各自治体でようやく取り組みが始まりだした。

ケアマネージャーや介護福祉士の資格を持っている、淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授は、「離職率が高い介護業界ではカスハラが離職の大きな要因となっている。介護業界のカスハラのひどい実態が知れ渡りはじめ、行政が対応し始めたのは大きな一歩だ」とコメントした。

結城康博教授(写真/本人提供)
結城康博教授(写真/本人提供)

結城教授によれば、介護業界のカスハラは特殊だという。

「相手が高齢者で認知症だったり、障がい者だったりなど、社会的弱者なので、管理者や上司も、カスハラを受けてもどう対応していいかわからないのが現実。これまで行政も、カスハラの対応を、介護サービスを提供する事業所に任せっぱなしだった。行政が対応を変え、専門家を呼んで窓口を開設したのは、有効な手段と言えるのでは」

国会議事堂(PhotoAC)
国会議事堂(PhotoAC)
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さらに、結城教授はこう続ける。

「行政は窓口を設置しただけで満足をするのではなく、次にすべきは処遇改善だ。介護報酬の割合は年々上がっているが、十分とは言えない。全国民に一人2万円の現金給付をするのであれば、その分をエッセンシャルワーカーに配るべきだとは思うんだけどね」

介護の現場では、早急な改革が求められている。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 サムネイル写真/Shutterstock