標的となった“若き風俗王” 

――著書の第5章『若き風俗王の肖像』に登場する警視庁の刑事なんて、本当にひどい。家宅捜索と逮捕劇をマスコミにリークして、テレビ放映で全国にさらし者にしたあげく、最後は不起訴ですもんね。

逮捕劇をニュースにしたテレビ局は、その被疑者が不起訴になったとき、同じだけの時間をかけて事実関係を上書きするニュースを流すべきですよね。

あの報道のせいで、浅野謙信(デリヘル『贅沢なひと時』創業者)さんは友人や知人を失い、ビジネスでも大きな風評被害を受けたのに、でっちあげをしようとした刑事たちは何の処分も受けず、浅野さんに謝罪もせず、のうのうと暮らしています。

――無理やり「自白」させようとする刑事とのリアルなやり取りには恐怖を感じたし、毎日8時間近く行なわれる取り調べを乗り越えるために、浅野さんが思い付いた黙秘のコツとして「無限ループ虚無モード」のアイディアにも驚かされました。

警視庁は20日間にわたって浅野さんを勾留し、再逮捕でさらに10日間勾留しましたが、検察は起訴できませんでした。当たり前です。職業安定法に違反するスカウト行為を彼はやっていないんですから。

それなのに、担当の刑事は、浅野さんにこう言ったそうですよ。「(違法なスカウト活動なんて)もうするなよ」って。

早稲田・医大を中退して高級デリヘルを創業 

――著書には、警察に対する見方が揺らぐ話がてんこ盛りですが、それ以上に取り締まられる側の、ナイトビジネスに関わる人たちのキャラクターが面白過ぎます。他人の不幸を心の支えにするスカウトマン、ホスト崩れのセラピストを陥れる女性向け性風俗店のお客さんとか……まあ、しかし、図抜けて面白いのは浅野さんですが。

私と浅野さんは、じつは同窓生なんです。

――若林さんは慶應義塾のOBですよね。

私は早稲田大学を出て、慶應の法科大学院ですね。

――浅野さんは早稲田を中退して、医大ですか。

早稲田を休学して、たった1年で医大に合格するなんて凄すぎますけどね。

――おまけにその医大もまた中退して、高級デリバリーヘルス『贅沢なひと時』を創業してしまう。波瀾万丈としか表現できない人生です。

でも歌舞伎町って、浅野さんみたいな人ばかりなんですよ。性風俗産業は「世間の底辺」とか「誰にでもできる」とか、そんな風に言われることも多いですが、私は全然そうは思いません。経営者もキャストも誰にも似ていない、誰にも真似できない人生を歩んできた人たちなんです。