性風俗産業を取り巻く最大の問題
――若林さんは弁護士として、ナイトビジネスに襲いかかる「法の嵐」に対して「法の櫂」を提供したいとおっしゃっていますが、著書で触れられている「売春を合法化する必要性」についての議論も「法の嵐」を切り抜けるための手段の一環ということになるのでしょうか。
性風俗産業を取り巻く最大の問題は、その産業が「法によって管理されている」のではなく、逆に「法から見捨てられた領域」になってしまっていることです。いわゆる風営法は、キャバクラやホストクラブといった「接待飲食店営業」のカテゴリーと、デリバリーヘルスなどの「性風俗関連特殊営業」のカテゴリーに分かれています。
このふたつのカテゴリーはどちらが「許可制」で、どちらが「届出制」だと思いますか?
――手や口で性器に触れたり、かなりの程度の身体的な接触があるので、厳しい審査が求められる「許可制」は「性風俗関連特殊営業」のほうじゃないですか。キャバクラは会話を楽しんだり、ゲームをするだけですから「届出制」でも問題ないように思います。
正直、それが一般的な市民感覚だと思いますが、現状はまったく「逆」です。従業員が個室で客の性器に触れるなど、細心の注意が必要な身体的接触を伴うデリヘルなどの性風俗産業はなぜか審査の緩い「届出制」にとどまっていて、逆にキャバクラやホストクラブなどは審査の厳しい「許可制」になっています。デリヘルなどの性風俗産業は審査の緩い「届出制」にとどまっています。
――奇妙ですよね。
「国は、性風俗産業を認めてはいませんよ」というパフォーマンスのために、こうした倒錯が生じているのだと思います。「許可」という言葉には、許可の要件を満たした者に対して、国(正確には、各都道府県の公安委員会)がその営業を認めて推奨するかのようなイメージがともないます。それを嫌っているのでしょう。
警察や行政の事情で摘発される店舗
――職業に貴賤はないはずなのにおかしいですね。しかし「許可制」ではなく、「届出制」にすることで、どうして国家権力のイメージが守られることになるのですか。
実際、行政(警察および公安委員会)は「届出を受けるだけ」という建前に安住して、性風俗店を管理・監督する責任を曖昧にしているように見えます。
――たしかに、著書では性風俗産業の現場で、現行の法律で禁じられている「売春」が、しばしば行なわれていることが指摘されています。
一介の弁護士である私ですら知っているのに、世界に誇る日本の警察機構や行政機関が実態を把握していないはずがありません。
――警察による「見せしめ的な摘発」(風営法に違反している店舗をすべて摘発するのではなく、一部の店舗を見せしめとして摘発する行為)では効果がない、と。
効果の有無というより、そうした運用は「法の下の平等」という原則をまったく無視している可能性が否定できない、ということです。逮捕されたり、刑事罰を受けることは、その対象者の人生に多大な不利益を与えます。
だからこそ、国家権力は恣意的に行使されてはなりません。明確に基準を示し、平等な規制を行なった上で、違反した者は「誰であれ」等しく罰を受けるべきです。
ところが、性風俗産業に対して、国や警察、行政は――摘発できるにもかかわらず、大多数を放置し――警察の指導に従わない店や、警察が摘発したスカウトグループと付き合いのある店、警察が欲しい情報を持っていそうな店など――本来的な「売春の問題」をかかえる店舗ではなく、警察や行政側の事情で、恣意的に性風俗店の摘発を行なっていると指摘する声は少なくありません。
売春禁止か合法化の二択
――そうした、曖昧で恣意的な摘発の在り方を改善するためには、どうすればよいのでしょうか。
二択しかないでしょう。「禁止を徹底して、平等に売春を取り締まる」か、「売春を合法化する」か。
――歴史的な経緯に鑑みると「売春禁止の徹底」は難しそうですね。なにしろ、「世界最古の職業」のひとつです。
そうだとすれば、やはり「売春が頻発している現状」を認め、その状況のもとでセックスワーカーを含む「労働者の安全」と「透明性の高い経営」を両立させ、客の安心を向上させるためには「売春を合法化」して、警察(公安委員会)の管理監督下で「許可制」として運用するのが適当ではないかと考えます。
取材・文/山田傘