両親に学んだ「人を赦すことの大事さ」
中学は無事に卒業、高校に入学したが中退してしまう。アルバイトで食い繋いできたが、18歳になってすぐ緒月さんは風俗店で働き始めた。
「弟と妹の生活を助けるため、風俗店で働いて得た収入を半分以上家に入れていました。私に対して冷たく、厳しい母親でしたが、それでも『お母さんに愛されたい』と思っていたんです。だから、お金を稼いで母に楽をさせてあげたら私を愛してくれるかなと。でも、お金では人は変わらないんですよね。結局家を出た時、自分は24歳くらいでした」
いくら家庭にお金を入れても母親が緒月さんを愛すことはなかったという。母親から愛されることをあきらめて、家族とは離れて暮らし始める。寂しい話ではあるが、お金では人は変えられないと気付いたおかげで、緒月さんは自分の道を歩き始めることができたのだ。
「そこからは自分のために生きてきました。今のように風俗嬢に対して理解のあるような社会ではなかったですし、必死でした」
緒月さんは実家を出てから、さまざまな風俗を経験してきた。
「あらゆる業態の風俗で働きました。今でもたまに出勤していますが、現在はSMショーにパフォーマーとして出演することが収入の中心になっています」
緒月さんが家を出てからも完全に家族とのつながりは切れたわけではなく、ときには実家にも戻っていた。母親と離婚した父親も頻繁にではないが実家に顔を出し、交流は続いていた。しかし父親はある日、自ら命を絶ってしまう。
「最後に会った時、いつもと様子が違っていたんです。あれだけ『暴君』だったのに、突然『専門学校に行かせられなくて、ごめんな』って謝ってきて。あと『生まれ変わったら何になりたい?』とも聞かれて。たぶん、鬱状態だったんじゃないかな」
母親に「お父さん、鬱かもしれない」と伝えたが、母親からは「あの人が鬱になるわけがない」と言われてしまった。
「お母さんは実は『もうちょっと経ったら、お父さんと再婚してもいいかな』って言っていたんです。それならお父さんに早くそう言えば、こうはなっていなかったかも、と考えてしまいますね」
緒月さんとは愛憎入り混じった複雑な関係性を築いていた母親も、肺炎で早逝してしまう。
「両親は反面教師になっていますね。やはり憎みきれない部分はありますし、人と正面から向き合うこと、人を赦すことの大事さを学ばせてくれたと思っています」