安心・幸せを求められなくなる「愛着障害(アタッチメント症)」

私たちは本来、安楽を求めてしまう生き物です。気づいたら手を抜いて仕事していたとか、きつい仕事は避けてしまうとか、そういう経験は多くの方にとって身近なものでしょう。これも「無意識のうちに」行われているものです。

それとは反対に、ひどい虐待を受けていると安心や幸せを求める気持ちに強力な制限がかかります。それを精神科では「愛着障害(アタッチメント症)」と呼びます。

虐待を受けていた人には、反復強迫と愛着障害があわさった苦しみを抱えている人がいます。繰り返しになりますが、苦しいほうへ向かい、そうして「わざわざ」こころの傷を確かめて、これが自分だったなと納得する心理です。不幸でいることのほうが安心できるのに近いかもしれません。

たとえば私たちでも、幸運ばかりが続くと次には不幸が起こるかもしれないと、少しは卑屈になることはありませんか。それは幸運を喜びながらも気を引き締めていこうと思う気持ちだったり、有頂天になりそうな自分への戒めだったりします。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

こうした気持ちが極端に強く、常に自分をおとしめていると言えば、ほんの少しだけでも想像できるのではないでしょうか。

さも彼らのことを理解しているように書いている筆者ですが、深く接していると反省することばかりです。よかれと思って行う働きかけが、思わぬ逆効果になることもあるからです。

反復強迫は愛着障害にくらべると、専門家間でもあまり知られていません。しかし、どうしてもやめられない依存症や自傷行為などの心理を深く考えていくと、ここで述べたようなこころの傷が隠れていることもあるのです。

文/植原亮太

ルポ 虐待サバイバー
植原亮太
ルポ 虐待サバイバー
1045円(税込)
ISBN: 978-4087212402
田中優子氏・茂木健一郎氏推薦! 第18回開高健ノンフィクション賞で議論を呼んだ、最終候補作 生活保護支援の現場で働いていた著者は、なぜか従来の福祉支援や治療が効果を発揮しにくい人たちが存在することに気づく。 重い精神疾患、社会的孤立、治らないうつ病…。 彼ら・彼女らに接し続けた結果、明らかになったのは根底にある幼児期の虐待経験だった。 虐待によって受けた”心の傷”が、その後も被害者たちの人生を呪い続けていたのだ。 「虐待サバイバー」たちの生きづらさの背景には何があるのか。 彼ら・彼女らにとって、真の回復とは何か。 そして、我々の社会が見落としているものの正体とは? 第18回開高健ノンフィクション賞の最終選考会で議論を呼んだ衝撃のルポルタージュ、待望の新書化!
amazon