トラウマを再確認してしまう「反復強迫」という心理

第二次性徴が起きるには相当に若い年齢で、すでにその兆候が現れていることを「思春期早発症」と言います。原因はいくつか考えられているようですが、筆者の知る範囲の事例では、幼少期からの性的虐待への暴露がかなり影響していることもありそうです。

「ありそう」だと強調したのは、そもそもこうした虐待が明るみに出ることが稀なので、詳しいデータの蓄積が難しいからです。おそらく性被害がトリガーとなって脳が性ホルモンを分泌するように指令を出してしまったのでしょうが、これにはまだ医学的な根拠はありません。

こうした症例が明るみに出ないというのは、実際にAさんも「母親に言っても『どうせあんたが誘ったんじゃないの』と言われるのは目に見えていた」と言い、性的虐待や性犯罪に巻き込まれたことは、これまでに誰にも話したことがないそうです。異様なことですが、親がそれに気づく素振りもなかったと振り返ります。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

「先生は、レイプまでされたのに風俗で働いている私を、どう思っていますか?」

「んー、質問に対して質問で返して申し訳ないんですけど、実際に働いて、どう感じるのですか?」

「どう感じるかですか? やっぱり私の人生って、こうだなって思います。いいお客さんばかりじゃなくて、やばい人もいます。自分勝手に振る舞う人もいて、痛いし、苦しいし。そういうときに、なんならそのまま殺してくれればいいのに……、このまま終わらせてくれないかなって思って、結局死ぬことはできないので、私の人生、やっぱこうだよな……って。そんな感じですかね」

「——そうですね、それがAさんですね」

「えぇ」

仕事がきつくて嫌、想像していたのと違う、いますぐ逃げ出したい! という気持ちが語られているわけではないことを、お分かりいただけるでしょうか。

彼女の話した「私の人生、やっぱこうだよな」は、自分が虐げられていることを確認する心理です。これは精神分析の用語で「反復強迫」と呼ばれます。簡潔に説明すると、自らの心的外傷体験(トラウマ)を無意識のうちに再確認してしまう行為のことを指します。「無意識のうちに」というのがポイントで、本人にその自覚はありません。

彼女の心理を代弁すると「必ず嫌なことをされて、その度に人生を投げ出したくなって、しかしそうはできず、一人っきりの悲しみの中で自らの人生を静かに納得する」となるでしょうか。