私たちはアルゴリズムの召使いなのか? ユーザーたちの「タダ働き」がビッグ・テックの「利益」を支えているという衝撃の事実
いま「テクノ封建制」という言葉が注目を集めている。ギリシャの経済学者ヤニス・バルファキス氏が提唱したキーワードで、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)などの巨大テック企業が私たちからサービス料や手数料などをピンハネすることで富を集積し、きわめて強力な存在として君臨するようになった経済システムを指す。
テクノ封建制の成立にはAIやアルゴリズムの発達が不可欠だった、とバルファキス氏は言う。この不公平な経済システムはどのように成立したのだろうか。いま話題の『テクノ封建制』より一部を抜粋、再編集して紹介する。
テクノ封建制 #2
私たちは「タダ働き」でクラウド資本に貢献している
クラウド資本がほかのたぐいの資本と比べると、非物質的だというのは確かだろう。でも「クラウド」(空に浮かぶ雲)という比喩はたとえにすぎない。他の資本と同じように、実体があるのだ。
実際には、巨大なデータセンターにどこまで続くかわからないほどサーバーの列が並び、それが地球を覆うほどのセンサーとケーブル網でつながっている。
無数のケーブルにつながっているクラウド資本
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では、クラウド資本がほかと違うのは支配力の強さだろうか?
それも違う。資本主義の初期から、あらゆる資本財には他者を支配し、命令する力があった。その力が強いものも、弱いものもあっただけだ。
もちろん、クラウド資本はこれまでになかったやり方で私たちを支配しているけれども、その特別な性質を把握する鍵は、クラウド資本とその支配力がみずからを再生産するプロセスにある。ハンマーや蒸気機関やテレビ網との違いは、クラウド資本の再生産のプロセスだ。
クラウド資本をこれまでの資本とまったく違う、新しい、そして恐ろしいものにしている要因を少し見てみよう。資本はこれまで労働市場で、つまり工場や事務所や倉庫の中で再生産されてきた。機械の助けを借りてモノを生産するのは、賃金労働者だった。
モノを売って利益を捻出し、その利益で賃金をまかない、より多くの機械をつくってさらに生産する。そうやって資本は蓄積され、再生産されてきた。そんな昔ながらの資本と比べると、クラウド資本は賃金労働者がいなくても再生産できる。どうやって?
人類のほぼ全員に、少しずつ再生産に協力してもらうよう命令するのだ。しかもタダで!
クラウド資本に蓄積された最も価値ある部分は、物理的なものではなく、フェイスブックに投稿されたストーリーであり、TikTokやユーチューブにアップロードされた動画であり、インスタグラムの写真であり、ツイッターのジョークや悪口であり、アマゾンのレビューであり、私たちの位置情報だ。
私たちは、自分の物語、動画、画像、冗談、そして行動を無償で差し出すことで、どんな市場も経由せずにクラウド資本の蓄積を生み出し、再生産しているのだ。
#3 に続く
文/ヤニス・バルファキス 写真/Shutterstock
テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。
ヤニス・バルファキス、斎藤幸平、関 美和
2025/2/26
1,980円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4087370089
《各界から絶賛の声、続々!》
世界はGAFAMの食い物にされる。
これは21世紀の『資本論』だ。
――斎藤幸平氏(経済思想家・東京大学准教授)
テクノロジーの発展がもたらす身分制社会。
その恐ろしさを教えてくれる名著。
――佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)
これは冗談でも比喩でもない!
資本主義はすでに死に、私たちは皆、農奴になっていた!
――大澤真幸氏(社会学者)
私たちがプレイしている「世界ゲーム」の仕組みを、
これほど明快に説明している本はない。
――山口周氏(独立研究者・著作家)
資本主義はすでに終焉を迎え、グーグルやアップルなどの巨大テック企業が人々を支配する「テクノ封建制」が始まっている!テック企業はデジタル空間の「領主」となり、「農奴」と化した私たちユーザーから「レント(地代・使用料)」を搾り取っているのだ。このあまりにも不公平なシステムを打ち破る鍵はどこにあるのか?
異端の経済学者が社会の変質を看破した、世界的大ベストセラー。
目次
第一章 ヘシオドスのぼやき
第二章 資本主義のメタモルフォーゼ
第三章 クラウド資本
第四章 クラウド領主の登場と利潤の終焉
第五章 ひとことで言い表すと?
第六章 新たな冷戦――テクノ封建制のグローバルなインパクト
第七章 テクノ封建制からの脱却
解説 日本はデジタル植民地になる(斎藤幸平)