「コンサルは安定のため」
─なるほど。今挙げていただいた保守的、安定といった発想と、コンサルを仕事に選んだことはつながっていますか?
「つながっていますし、周りにもそういう人が多い印象です。コンサルファームに入るメリットって“キャリアとして取り返しがつくこと”だと思うんですよね。汎用的なスキルが身について、それによって先の道が広がっていくんじゃないかという期待がある。
自分もまずはここでチームを持てるくらいになりたいと思っていますが、それもコンサルファームで偉くなりたいというよりは、そこまでいけば外に出ていっても大丈夫だろうという気持ちが強いです」
─コンサルファームに入ることがキャリアの選択肢を増やすのに役立つと。
「その側面はあると思っています。ただ、キャリアのモデルケースになるような人が周りにいるかというと、そんなにいない気がしていて。そこは自分で考えていかないといけないんだろうなと思っています」
「タワマン文学」のメンタルを壊す若者たち
Aさんのインタビューでも、「メンタルを壊してしまった」という発言が出てきたが、近年注目を浴びているタワマン文学と呼ばれるタイプの作品を読むと、メンタルヘルスの問題で仕事から離れる登場人物が多いことに気づく。しかも、それが取り立てて特別なことではないかのように、大した注釈もなくそういった展開が挟み込まれる。
久々に聞いた彼の名前は、無機質な文字列みたいに聞こえました。転勤先の支店でパワハラ上司に当たって、心を病んで退職したこと。
(麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』収録「30まで独身だったら結婚しよ」)
彼は1年ほど川崎の支店にいて、そして休職したらしい。チューターとの相性が徹底的に悪かったらしい。上司との相性も徹底的に悪かったらしい。振り返ると、ゼミでも彼と相性のいい人なんていなかった。
(麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』収録「真面目な真也くんの話」)
「これからシンガポールと繫いでテレビ会議なんだけど、簡単で良いから議事録をお願いできないかなと思って。ほら、垣田君がちょっとメンタル崩して休んじゃっててさ」
(外山薫『息が詰まるようなこの場所で』)
自身の仕事がどんな位置にあるものなのか、つまりは皆に自慢できるような仕事なのかがSNSで常につまびらかにされるような状況で、彼ら・彼女らは「なりたい自分」になろうとする。そんなふうにプレッシャーを勝手に感じながら世代も価値観も異なる人々と仕事をしていれば、心身のバランスを崩してしまうのは当然のこととも言える。