「日本が世界に誇ってきた部活動」

――実際に、兵庫県神戸市では「コベカツ」という名称で、学校部活動の地域移行が進められているようです(https://kobe-katsu.smartkobe-portal.com/)。一方で、「既存の選択肢が縮小されるだけ」といった声も聞かれます。

神戸は、市をあげて学校部活動の地域移行に取り組もうとしており、教職員たちからは概ね歓迎の声が聞こえてきます。一方、保護者からは不安の声が多く上がっていることも確かです。

「コベカツ」は、子どもたちにとっての幅広い選択肢、校区に関係なく活動を選べる柔軟性を前面に出していますが、指導者への謝金は保護者負担となり、校区外の活動場所への送迎もあるわけではありません。

そうであれば、謝金や交通費を払える家庭とそうでない家庭、活動場所まで送迎できる家庭とそうでない家庭、多様な活動を提供できる地域とそうでない地域など、家庭間、地域間格差が生じることは目に見えています。

大事なのは、中学校の部活動を通してこれまで当たり前のように子どもたちに保障されてきたスポーツや文化活動に触れる権利は、政府による教職員への搾取によって支えられてきたという事実です。

それが教職員の過重労働として社会問題化した際に、政府はその負の歴史を謝罪し、部活動を無理なく運営できるだけの人と予算をつくるのではなく、開き直って保護者の自己責任とスポーツ産業の活性化という道を選択した。ここに最大の問題があります。

教職員の多忙化は深刻で、彼らに対する搾取の上に成り立つ部活動が持続可能じゃないことは、疑いようのない事実です。

しかし、だからと言って、そもそも教職員の働き方改革と子ども達の部活動を天秤にかけるのがそもそもおかしいでしょう。

「部活動は教員のボランティア」のままでよい? 学校部活動が「地域移行」することで生まれる格差とは…今後保護者がお金で買うべきサービスに_4
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教育基本法が定める教育の目的は、「人格の完成」です。文科省が従来、部活動を学校教育の一環として位置づけてきたのは、スポーツや文化活動が「人格の完成」と無関係ないはずがないからでしょう。

これまで、政府はことあるたびに、「日本が世界に誇ってきた部活動」という言葉を使ってきました。ならば、これまでの教職員に対する搾取をまずは謝罪し、今度こそは真に胸を張れるような条件整備を進めれば良い。ただそれだけのことです。

※戦争や自然災害などの非常事態のタイミングを狙い、人々がショックにより思考停止状態に陥っているあいだに一気に新自由主義改革を断行する手法。

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崩壊する日本の公教育
鈴木大裕
崩壊する日本の公教育
2024年10月17日発売
1,100円(税込)
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