学校部活動の「地域移行」
――教員が不足していることへの根本的な対策は講じられていないどころか、問題が悪化していると。
本来であれば、なぜこれほどまでに教員が不足したのか、どうして多くの若者が教員になりたがらないのか、あるいは、なぜこれだけ沢山の教員が精神疾患を抱えているのか、といった本質的な問いと向き合う必要があるはずです。
また、このごろ話題になっているのが、学校部活動の「地域移行」です。もともと教員の長時間過重労働が社会問題化して、精神疾患も問題になったので、それを解消するという名目で議論されていますが、その本質は公教育の「民営化」の一環として位置づけて良いと思います。
経産省やスポーツ庁は、教職員には「これはあたなたちの働き方改革ですよ」と言い、民間企業には「これはスポーツ産業の活性化ですよ」と言うのです。これからは学校の運動場やプールや体育館といった施設を使って、民間企業がビジネスとして採算が取れるようにしていく、とまで明言しています。
新書の中でも紹介しましたが、こうした議論を見ていくうえで、マサチューセッツ工科大学の名誉教授であるノーム・チョムスキーの言葉がヒントを与えてくれます。
民衆を受け身で従順にする賢い方法は、議論の範囲を厳しく制限し、その中で活気ある議論を奨励すること。
学校部活動の「地域移行」に関して政府が民衆に押し付けてくる議論の枠組みは、「部活動は学校でやるべきか、それとも地域でやるべきか」です。
しかし、問われていないのは、「スポーツや文化活動に触れる機会は、保護者がお金で買うべき『サービス』なのか、それとも全ての子どもに分け隔てなく保障されるべき『権利』なのか」ではないでしょうか。
私は、自分が住んでいる高知県の土佐町という町の議員もしています。
実際、2022年3月の土佐町議会で、教育長にこの質問をぶつけてみました。教育長からは、「保護者がお金で買うべきサービスではない」との明確な答弁がありました。それは、子どもたちがスポーツや文化活動に触れる機会を、町が全ての子どもの権利として守っていくという決意表明でした。そこから予算の議論が始まるわけです。
2022年夏には、『学校部活動の地域移行:その課題と対策』をテーマに「教育関係者と地方議員のつどい」を土佐町にて企画し、意見書を作成して政府に2つのことを要望しました。
1 部活動の地域移行に関しては当事者である子ども、教職員、保護者等の声を十分に聞き、それぞれの地域の実情に合わせて進めること
2 「人格の完成」に値する豊かな学校教育を守り、教職員の負担軽減を進めるためにも、部活動を含む教員のすべての業務を勤務時間内に収める取り組みも推進すること
この意見書は、全会一致で採択され、教育新聞でも速報として取り上げられました(部活動地域移行「地域の実情に合わせて」 土佐町議会で意見書採択 )。
そして、2点目の要望の実現可能性を探る過程で、土佐町の中学校では異常に多い余剰時数(文科省が定める、1年間に教えるべき標準授業時数を上回る授業時数のこと)が存在することが発覚しました。
その後、余剰時数の削減に向けての取り組みを議会で問いただす度に着実に減少し、今年度はついに余剰時数「ゼロ」を実現することができました。