ビジネスに侵食される日本の教育界

――日本の教育環境の激変は、ここ最近で急速に進んだように感じています。変化の背景には何があるのでしょうか?

ひとつの大きな要因は、例えば下村博文氏(第二次・第三次安倍内閣で文部科学大臣・教育再生担当大臣)のような、教育産業出身の政治家の台頭です。下村氏はもともと学習塾の経営者でしたよね。

安倍政権は「経産省内閣」とも呼ばれました。市場経済の活性化を目的とする経産省の影響を強く受けて、教育政策への介入が加速しました。

コロナ禍も大きかったですね。今までなかなか進まなかったICT授業などの導入を、一気に後押ししました。学校での一斉教育が難しい状況になって、全国一斉休校もありました。どうやって遠隔で授業をするのか、と現場が困っている時に、教育産業の出番だという話になったわけです。

――教育の課題や危機を口実に、産業界がビジネスとして教育にどんどん入り込んできているということでしょうか。

まさにそうですね。「ショック・ドクトリン」※のような面があると感じています。

社会問題化している教員不足が良い例です。多くの学校が機能不全を起こすような深刻な教員不足を前に、政府は迅速な対症療法を迫ります。特別免許状の「積極活用」を推進し、英語やプログラミングなどのスキルを持った民間人に、月に数回でも良いから「副業先生」として学校に教えに来てください、と呼びかけるのです。

教員不足が続けば、英語やプログラミングを切り口に、どんどん他教科にも拡大していくでしょう。でも、そうなれば、もはや教員免許の意味が無くなり、学校の授業も塾に委託した方が良いじゃないかという話にもなります。

小学校の算数 塾講師活用で学力向上 検証/千葉県(2023年11月27日 チバテレニュース)
小学校の算数 塾講師活用で学力向上 検証/千葉県(2023年11月27日 チバテレニュース)

実際に千葉県では小学校の算数の授業に塾講師を活用して学力向上を目指す取り組みが行われました。このような流れが続けば、学校や教員の存在意義そのものが問われるようになるのです。