深刻な高校生の学力低下の一方で無償化ばかりが先行
一部の私立大の学力低下とそれにまつわる「私大ゾンビ化問題」への反論として、高校教育の質低下の割を食っているのだ、というものがある。これはその通りで、高校の学力の二極化は深刻なまでに進行している。
文部科学省が特定の子どもに毎年質問してその変化を見る「21世紀出生児縦断調査」では、高校3年生で休日の勉強時間が6時間以上との回答は2割に及んでいる。一方、「勉強しない」との回答は3割を超えた。その上で、日本の大学の進学率は6割近いのだ。
こうした現状に公立高校の無償化と、私立高校の授業料の支援拡大が押し寄せてくると二極化がさらに進みかねない。高所得世帯が塾代を惜しみなく充てられること、私立高校に人気が傾斜して公立高校の質が下がることへの懸念がある。
日本の高校進学率はほぼ100%で、留年する割合はわずか0.3%ほどに過ぎない。義務教育には基本的に留年制度は設けられてもいない。ヨーロッパでは義務教育レベルでも2割程度が落第している。フランスやドイツは大学が一部無償化されており、日本でもそれを議論するのであれば、義務教育からの見直しを行なわなければならないはずだが、その議論は置き去りにされたままだ。
政治家が誰も教育改革に前向きではないのは、成果が出るまでに時間がかかるため、というのが大きいだろう。数年、十数年単位で経過を見なければならない教育改革などに手を出すよりも、国民の人気を獲得するためには無償化を掲げた方が手っ取り早いというわけだ。