「ガラスを割ったのは家族では」と相手にせず
家族がその時点で川崎臨港署に対して態度を硬化させていたのもやむを得ないことだった。
交際時から彩咲陽さんに暴力をふるい、別れた後も連日付きまとい行為をしていた白井容疑者は、彩咲陽さんの失踪と同時に現れなくなっていた。署は家族から聞いてこの状況を理解しながら、ストーカー犯罪を疑うことを避けるような動きを見せてきたからだ。
彩咲陽さんが祖母宅から姿を消した2日後の12月22日に、一階の窓ガラスがバーナーで焼き切られたように割られ、何者かに侵入された形跡があるのを家族が見つけ、捜索願(行方不明者届)を出している。しかし現場に来た川崎臨港署の女性刑事は「事件性はありませんね」と言い、証拠の採取もしなかったという。(♯3、♯4)
だが飛松氏は、それ以上に不可解な言動が警察官にあったと証言した。
「捜査を求める家族に対して警察官は、理由も言わずに事件性がないと言い続け、『もし事件だったら自分は警察を辞める』というタンカまで切ったといいます。さらに、ガラスは内側から割ったもので、捜査をさせるために“偽装工作”をしたのだろうという趣旨のことを、家族に向かって言ったというのです。
この言葉は他の場所でも聞きました。あるキー局の記者によると、署の幹部は捜査をしないのかと聞かれて『家族が(ガラスを)割ったんや。偽装工作しとる。あんたら(マスコミ)が扱うような事件じゃない』と答えたというのです。
それだけではありません。家族は彩咲陽さんの手掛かりを少しでも得ようと情報提供を呼び掛けるビラを配ることも考えましたが、署は『出すな』と制止し、その理由も説明していません」
警察は12月22日から3月の終わりにかけて7回白井容疑者に任意の聴取をしたと説明するが、彩咲陽さんの居場所をつきとめることも、犯行を止めることもできなかった。
4月30日になってようやく県警は白井容疑者の自宅を強制捜査し、遺体が見つかった。それまで飛松氏や家族は、知り合いの議員に事件を知らせ、署の担当警察官とも面談してきた。その過程で飛松氏は、担当警察官が遺族に「彩咲陽さんは失踪から4日後の昨年12月24日に“特異行方不明者”になっている」と伝えていたことを知ったという。
「特異行方不明者とはただの家出人ではなく、生命や身体に危険が及ぶ可能性が高いと判断される行方不明者で、県警本部長に報告があがる案件です。そのような扱いになっているのだとすれば、当然、今回の問題は厳格に対処しなければならないぞと担当警察官に要求しました」