話し方でわかる“人となり”
一方、「僕は自分のリスナーの女性と出会い、結婚しました」と話すのは、都内在住の吉川敏明さん(仮名・40代)だ。吉川さんはPodcastで音声配信をしている。
「基本はゲームにまつわる配信なんですけど、雑談的なことも配信してて。あとはホットなニュースに対して、リスナーからコメントをもらう企画をしたりもしていました。ある時、ひとりの女性がゲストで音声出演してくれたんです」
その女性はいつもXでDMをくれていたリスナーの1人だった。音声のみなので、もちろん顔もわからない。
「しかも、彼女は当時、既婚者だったんですよね。普通に、“リスナーの女性のひとり“ぐらいに思っていました」
ある日、都内で吉川さんのPodcastのリスナーを集めたオフ会が開催された。お店には10〜20人ぐらいの人が集まったという。
「その時に、以前、ゲストとして音声出演してくれた彼女がいたんです。実際に対面してみたらすごく綺麗な人で『え、この人だったの!』って驚きました。話もかなり意気投合して盛り上がりましたね』
しかも驚いたことに、既婚者だったはずの彼女は離婚をして独身になっていた。奇跡のタイミングでの初対面。その日を境にふたりは毎日LINEをするようになっていく。
「当時、会社から家に帰るまでに2駅歩くという日課があったんですけど、歩いてる間にいつもLINEで通話をしていました。彼女とは好きなラジオ番組など、趣味や共通点も多かったので、とにかく話すのが毎日楽しかったです」
彼女の住まいが大阪だったこともあり、なかなか会えないふたりはLINE通話で毎日話した。ほどなくして吉川さんからのアプローチで遠距離交際がスタートする。
「僕は埼玉の実家に暮らしてたんですけど、その周辺で安くて広い賃貸物件を見つけたんです。ちょうどいいと思って、『引っ越してきたら?』と誘いました。そこから出会って1年余りで入籍しました。僕も離婚歴があって、お互いがバツイチ同士。結婚に対して、大きな期待や特別感もないから、自然な流れで入籍できたんじゃないかなと思います」
そんな吉川さんがPodcastで結婚に至った理由は、「情報量」だと言う。
「1度の配信で1時間以上話してるから、やっぱりその人を知る情報量が多いと思います。普通の恋愛だと、少しずつ相手のことを知ってから、交際に発展するというプロセスが多いじゃないですか。
音声配信だと、“人となり”が話し方からなんとなくわかりやすい。しかも、職場で見せる顔と違い、非常にプライベートな思いつきや趣味なんかを話してるから、リスナーとの心理的距離感も近いんですよね」
既に開示されているプロフィールや顔写真から相手を選ぶことが大半の現代の婚活。しかし音声配信では、顔を見ることなく、「声の雰囲気」や「話題」から相手を知ることができる。
今後は、恋愛や婚活目的の音声配信プラットフォームが増えていくかもしれない。
取材・文/桃沢もちこ