妻の希望に沿いたい

「キラキラしたアメリカの映画が好きだったので、『アメリカ人ってみんなフレンドリーなんだ』とか、『給料みんな高いんだ』とか、『金曜日の朝からゆっくりランニングしてるんだ』『残業ないんだ』とか、そんなことしか考えてなかったですね」

その認識の延長で、社会人になってから「英語をしゃべれたらカッコいいかも」と思い立ち猛勉強。なんとか話せるようになり、オーストラリアとニュージーランドでワーキングホリデーの経験も積んだ。その後、日本で英語講師をしていたが、そこでのちに妻となるアメリカ人の女性と出会う。

そして、妻から「家族が近くにいると何かと安心だからアメリカで暮らしたい」と切り出され、すんなり受け入れたと話す。それには理由があるそうだ。

妻と息子さん(本人提供)
妻と息子さん(本人提供)
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「僕は子どものころ、中国人の母親ひとりに育てられました。しかし、母はアルコール依存症を発症し、虐待やネグレクトを受けて育ちました。児童養護施設にいたこともあります。高校卒業後、介護の専門学校へ行き社会人になるのですが、母とは一切連絡を取っていない状況です。だからこそ妻の希望に沿いたいと思えたんです」

しかし、思い描いていたアメリカ生活は地獄のような日々の連続だった。

後編へつづく

後編では、難民さんのアンチコメントとの向き合い方や、家族との絆、現政権下の「絶望」についてうかがう。

取材・文/木原みぎわ

地獄海外難民●1991年生まれ。2019年頃からニューヨーク州に移住し、妻と2人の息子と暮らす。肉体労働(大工)のほか、フードデリバリーやライドシェアなど掛け持ちし日々即日解雇の恐怖を抱えながら働く。うつ病とも闘いつつ、絶望的な毎日をYouTubeにて配信中。2025年1月に初の著書『底辺の大工、ヤバいアメリカで生きのびる』(KADOKAWA)を発売。