7年間の受験生活を乗り越え税理士に合格「夜職の女の子は気軽に来て欲しい」

まずは簿記の勉強から始めたところ、半年で簿記2級、そして1級にも合格した。「数学は好きだし、勉強も苦じゃなかったし」と笑う沖さんだが、簿記1級は合格率10%とされる難関資格。「数学が好きだから」で合格できる資格ではない。

簿記資格に合格して自信を深めた沖さんだが、それから税理士の試験を受け始めてから合格するまでに7年かかっている。

「長かったですよ。22歳から29歳までの人生で一番楽しい時期に勉強三昧ですから。今考えてみれば、それで良かったと思えますけど当時は辛かったですね」

7年間の受験生活、挫折しそうにはならなかったのだろうか。

「もちろん挫折しそうになりましたよ。でも、その前の4年間のツケが大きすぎました。自己破産して闇金に借金があった当時の私には、税理士に合格するしか道がなかったですから。でも、ときどき『風俗に戻ったほうが楽なんじゃないかな』とは思っちゃいましたね(笑)。それくらい勉強は辛かった」

「夜職で税金に悩む人は気軽に」とのこと
「夜職で税金に悩む人は気軽に」とのこと

沖さんが挫折せずに税理士試験に合格できたのは、沖さんを風俗店から水上げして「税理士になる」という目標を与えてくれた愛人の存在と、当時できた恋人の存在がある。とくに恋人は沖さんと同じく税理士試験の受験生で、挫折しそうになる心を支えてくれた。

「恋人ができた時点で、さすがに申し訳ないので愛人には『もう会えない』と伝えました。ただ、相手が『心の準備ができていない』って、別れるまで1年かかりましたけど(笑)」

大きなトラブルにはならなかったようだが、恩人を差し置いて恋人を作ってしまうあたりも沖さんの人生の波乱万丈さを示すエピソードかもしれない。

沖さんは2007年に税理士試験に合格後、2014年に独立して「沖有美子税理士事務所」を開設。税理士として風俗で働く女の子たちをはじめとする夜職の人間の相談を積極的に受け入れている。

「夜職の子たちは、まだ納税に対する意識が薄いんです。風俗店も今はちゃんと女の子に清算シート(稼いだ額が記載されているもの)を渡すお店は増えてきていますが、その紙をすぐ捨ててしまう子も多くて…。確定申告に必要だから『写真に撮っておくといいよ』みたいなアドバイスはしていますね」

しっかりと確定申告をして税金を払うためにも、働く女性自身が税金に対する意識を高める必要がある。

「確定申告をしないと、罰金も含めた追徴税のリスクもあるしデメリットが大きい。せっかく体を張って稼いだお金が取られてしまう悲しい経験をさせたくないということもありますが、それ以上に確定申告は『私はここにいるよ』という、社会に対する証明だと思っているんです。

自分の居場所があるって大切なんですよ。納税し社会の一員なんだと自覚することで意識が変わっていく夜職の女の子をたくさん見てきました。だから税金が気になるって方は、気軽に相談に来てほしいです。最初は雑談だけに来るのも構いません、初回1時間は無料ですから。ってまるでホストの誘い文句みたいですね(笑)」

自身の波瀾万丈な人生経験をふまえ、後輩が損をしないためにと尽くしてきた沖さん。沖さんもまた、たくさんの夜職の女性たちに支えながら税理士として11年目を迎えた。

取材・文/蒼樹リュウスケ