「わたしがクレジットカードで支払うのはこれが最後よ」

入ったのはとてもすてきなレストラン。疲れ切った顔をしたわたしたちに、店のスタッフが最高のサービスを提供してくれた。どうしてあんなに感じがよかったのか、いまでもわからない。何を食べたのかさえよくわからなかった。

それまでは〈ジャック・イン・ザ・ボックス〉みたいな、さっと食べられて値段も安い、しかも夜中の2時でも開いているようなファストフード店の料理ばかり食べていたのだから。キンバルも、〈ジャック・イン・ザ・ボックス〉のチキン・ファヒータ・ピタの味をいまでもよく覚えているという。

会計をすませると、わたしはふたりに言った。「わたしがクレジットカードで支払うのはこれが最後よ」

そして、実際そのとおりになった。

アメリカを中心に展開するファーストフード店〈ジャック・イン・ザ・ボックス〉
アメリカを中心に展開するファーストフード店〈ジャック・イン・ザ・ボックス〉
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私がいいたいのは、「がっかりしすぎるのはやめよう」ということ。何かに失望したときには、別の方向に進もう。クビになったり、仕事が見つからなかったりしたときには、落ち込んでばかりいないで、まずは動いてみよう。ローンの審査に通らなかったのなら、クレジットスコアを稼ぐためにコツコツ働こう。

ここに挙げたことはすべて、わたしが実際に経験してきたことばかり。結婚や恋愛はうまくいかなかった。たくさんの会社から不採用の連絡を受けた。わたしの人生はレールをはずれ、いくつもの都市や国に移り住むことになった。

恋愛について言えば、昔は男性に捨てられると半年は落ち込んでいた。でも、いつしかそれが3カ月になり、3週間になり、3日になった。

いまとなっては、あんなに落ち込まなければよかったと思う。失意に打ちひしがれている人は魅力的じゃない。まわりの人までイライラさせる。そのままだと、みんながあなたのもとを離れていく。

クライアントが悲しそうな顔でやって来るたびに、わたしはまっすぐに前を見て歩き、笑顔でいるようにと伝えた。クライアントに悲しそうな顔をされると、わたしの1日までもがみじめになってしまうから。彼らは笑い、わたしのアドバイスに感謝してくれた。

お金に余裕がないときにモデルの仕事を逃したとしよう。かつてのわたしなら不安でたまらなくなっていたはず。でも、いまなら平気だ。

さらには、これで犬と遊ぶ時間ができたわ、とまで考えられる。うちの犬はわたしが近くにいるといつもうれしそうだ。年をとることのすばらしさのひとつは、たとえ落ち込んでも、すでにそれを耐えぬいた経験をもっていること。立ち直るのも若いころよりずっと早い。

わたしからのアドバイスは、できるかぎり前向きでいること。あなたの苦しみは、きっと時間が癒やしてくれる。過去のわたしよりも早く、失意から立ち直れるようにがんばってほしい。犬を飼うのもいいかもしれない。

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文/メイ・マスク

72歳、今日が人生最高の日
メイ・マスク (著)、寺尾 まち子 (翻訳)、三瓶 稀世 (翻訳)
72歳、今日が人生最高の日
2020/7/15
2,420円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4087861297

「爽やかな風が吹き抜けるような70年の軌跡」 齋藤薫さん(美容ジャーナリスト)
「モデルとして、ひとりの女性として、ずっと憧れてきた人からのアドバイスがつまってる」 カーリー・クロスさん(モデル)
「人生は予想できないことの連続だけど、乗り越えて楽しむことができる、と教えてくれる」
ダイアン・フォン・ファステンバーグさん(デザイナー)

31歳で夫のDVから逃れて離婚、シングルマザーとなって40年。メイ・マスクは3人の子どもを育てるために、必死で働いてきた。モデル歴50年以上。通販カタログや母親役など地味な仕事を淡々とこなしてきた。モデル事務所から干されて仕事がなかった時期に、髪を染めるのをやめて白髪のままでいたら、自然体で暮らしを楽しむ姿が、キャスティングディレクターの目にとまり大きな仕事を依頼され始めた。

南アフリカ共和国の大学で勉強した栄養学は、カナダ、アメリカと引っ越す度に現地での資格が必要で勉強をし直した。プロとして他人の食生活をカウンセリングする一方で、自身はストレスでジャンクフードを食べ続け、体重が90キロ以上になった。その後も30キロの増減を繰り返したが、40代にはいり、『お腹がすいたときに、体にいいものを適量食べる』という王道のルールを守り続けて、今の体型に落ち着いた。

長男のイーロン・マスクを含む3人の子どもたちは、子どものころに興味を持ったことを尊重し、口を出さず見守り続けた結果、3人とも自分で学び、会社を興し、夢を実現させた。
現在、72歳のメイはSNSを活用して仕事の幅を広げて続け「今がいちばん楽しい」と断言する。「人生は何度でもやり直せる。あきらめずに挑戦し続ければ、必ず幸せになれる」
(原題:A Woman Makes a Plan)

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