入居者とのコミュニケーション、職員とのコミュニケーション

――ミキサー食の味を実際の料理のようにつくる研究をしたり、すれ違う一瞬でのジャンケンのコミュニケーションなどをうかがいましたが、鈴木さんの“工夫”には入居者ファーストの姿勢があるのですね。

介護業界全体のことは語れないけれど、私が関わったひとりひとりとのドラマは大切にしていきたいという思いが強いのかもしれません。

たとえば、「この方は話すことができないし、ひらがな表でのやり取りも厳しい」と言われていた方も、ずっと話しかけ続けつつコミュニケーションを取っていたら、私が施設を去る最後のほうに「あー、うー」などと声を出してくれたことがありました。

ご本人も、ご家族も、たとえそれが意味のある言葉ではなくても、やはりうれしいものなんですよね。

業務に忙殺されれば時間はすぎていきます。それでも過酷な仕事をしているのだから、立派なことなのだとも思います。でも私は、やるべき業務をこなすだけにせず、入居者様個々にとってどんなコミュニケーションのアプローチがあるかを探りながら、試していきたいと思って実践してきました。

また、やるべき業務を耐えながらこなすだけになると、精神的にも参ってきてしまうと思います。自分から「こんな介護がやりたい」と仕掛けていったほうがモチベーションにもなるし、職員同士のコミュニケーションについても、工夫しながらチーム一丸でやろうとする思いが強くなっていけば気持ちだけでも改善に近づくのではないかなと。

利用者からの感謝がやる気になると何度も教えてくれた
利用者からの感謝がやる気になると何度も教えてくれた
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――最後に、ご自身の介護職生活を振り返って、どんなことを思いますか。

私には微々たる力しかありません。介護業界が抱える問題について、思うところはさまざまありますが、すぐに変えられる力もありません。けれども、現状を知り携わった人たちに笑顔が増えたらいいなと思って奔走してきました。

ケアする側のケアについて、必要性は感じますが解決の糸口は見えません。けれども、精神的に改善した先に、介護職員がチームとなって入居者様たちのことを共有し語り合える未来があるといいなと思っています。

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取材・文/黒島暁生 写真/本人提供