あまりに不公平だったWBCの収益分配 

FIFA(国際サッカー連盟)や IOC(国際オリンピック委員会)がそれぞれ主催するサッカーW 杯やオリンピックと大きく異なり、WBC は出場参加国に対するスポンサー権、商品化権が一切認められていなかった。

アサヒビールをはじめとする日本企業は膨大なスポンサー料を WBC に支払っているが、それがまったく還元されずに主催組織である米国 WBCI(MLB と MLB 選手会の共同設立会社)に吸い取られていた。

サッカーW杯であれば、本大会に出場すれば、ボスニアのようにサッカー協会が自社ビルを建設するほどの大きな恩恵がある。

しかし、アメリカが一方的に収益配分を決める WBC は、例え大会スポンサーのほとんどを日本企業が占めていても、そしてまた日本代表が戴冠を続けても、収益の66%を WBCI が独占(日本は13%)していた。

第1回のWBCで優勝した日本だったが…
第1回のWBCで優勝した日本だったが…

そのため日本をアメリカが ATM 代わりに使っているだけではないかとの批判がなされていたのだ。

この問題を重く見た選手会会長(当時)の新井は2011年7月22日に選手会労組の臨時大会を開いた。その会合で「WBC に出場するうえにおいては、スポンサー権、ライセンス権をすべて運営会社の WBCI に譲渡するとされているが、この規定を変更するまでは日本は出場しない」と決議し、宣言をした。

この年は3月11日に東日本大震災があり、被災地支援のためにセ・リーグのシーズン開幕をパ・リーグに合わせて延期させることに新井は奔走し、これを実現させている。つまり野球界の未来を左右する大きな事案を同じ年に二つも扱っていたことになる。

だが、WBC参加条件を提起してから一年が経過しても、WBCI 側からは何の反応もなかった。 2012年7月20日、新井は会見を開き「日本が本来持つべき固有の権利を MLB が奪い取る構図になっている」と指摘し、あらためて選手会の総意として「大会不参加」を表明した。

「それこそ、日本が連覇をしている今だからこそ、闘えると思って『もうこれ、絶対譲らない。もう出ませんよ』と言い切ったんです」

最後はアメリカか日本か、どちらかが妥協するまで意地を張り通すチキンレースになるだろうと目されたが、新井は一歩も引かなかった。一方、早い段階から、NPB は WBC への

参加を表明していた。選手会は独自の判断を選択したことになったのだが、このねじれは

NPB 側の思考停止に起因していた。