筋力と精神力、それぞれのピーク

またハンマー投げに限らず、競技スポーツ全般のピークは、肉体と精神のふたつの面から考える必要がある。

肉体面は筋力、パワー、持久力から見る。筋力のピークは、一般的に男性が28歳、女性が26歳とされているが、私のウェイトトレーニングなどから見ても、たしかにそうであった。パワーのピークも、およそ同じ時期である。

持久力は、長距離選手やマラソン選手の最高記録に達した年齢が参考となる。持久力も、およそ30歳前にピークを迎える。このように、筋力、パワーと、持久力のピークは、同じくらいの年齢で迎えることなり、そのピークは数年続く。また体型面や身体の柔らかさなどが要求される競技は、ピークがそれよりも早い時期にくる。

精神面は、幅広く見る必要がある。心は常に肉体をコントロールしている。その心に問題が生ずれば、トレーニングどころか健康の維持もできない。また心には、物事をやり遂げる精神力や、動きを改良したりする創造力、さらに調整力などがある。

これらの能力も、心が正常に機能しているときのみ働く。このことからも、スポーツ選手にとって正常な心の維持が、いかに重要かがわかるだろう。

そして、心が正常なときに、肉体面も生涯でもっとも高めることができれば、生涯競技力のピークが見えてくる。だが心は、パフォーマンスの低迷や故障などにより、肉体的なピークを迎える前に、自ら競技生活に終止符を打つこともある。

写真/shutterstock
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さて、可能性があるということは、潜在する能力を秘めているということでもあり、その潜在能力を引き出すことが、パフォーマンスの向上につながる。私は、夏と冬のパラリンピックをテレビで見たことがある。手、腕、脚、そして目の不自由な選手たちが、健常者には考えられないような能力を発揮する。

損傷した個所を補い、日常生活をしていくだけでも大変なはずであるが、それ以上に厳しい競技スポーツにおいては、さらなる潜在能力を引き出していかなければならない。

もちろん一般の社会生活を営む健常者も、生きていくために食料を得て、住まいを見つけるために、潜在する能力を引き出して生活している。だが逆に、経済的にも生活環境にも問題がなく、安定してそれが長く続くと、人の潜在能力は発揮されないことが多い。

何不自由のない生活を長く続けると、人は社会生活を営むことができないほど弱くなる。名家や一族経営の会社は「三代目で潰れる」といわれるが、これはまさに、潜在する能力を引き出さなくとも、十分生きていくことができる環境に生まれついているからだ。