犯罪拠点はすでにミャンマーからカンボジアやラオスの国境に移動している 

こうした犯罪組織の摘発が進む中、数年前から新たな動きも見られていると話すのは前出のジャーナリストだ。

「すでに中国系詐欺組織は、拠点をミャンマーから移動させています。過去にも中国国内の取り締まりを逃れた詐欺団がカンボジアやミャンマーへ活動拠点を移したケースがあった。今回ミャンマーで暗躍していた首謀者たちの一部も、タイとラオスの国境や、タイとカンボジアの国境付近などに、カジノホテルを建設し、ここを詐欺の拠点として活動しています」

タイのアランヤプラテートからはカンボジア側のホテルやカジノが見える(写真/Soichiro Koriyama)
タイのアランヤプラテートからはカンボジア側のホテルやカジノが見える(写真/Soichiro Koriyama)

タイとの国境の街としても知られるカンボジア西部の街・ポイペトでも、近年多くの外国人が救出されている。救出された労働者は、ミャンマーで強制労働をさせられていたのと同様、オンライン詐欺を強いられていた。

例えば今年2月にはポイペトのコールセンターから脱出したタイ人の男女がタイ警察に保護されている。現地の報道によれば、拠点となっていたコールセンターは3万平米以上の広大な敷地で、中国人配下の1000人規模の外国人が強制労働をさせられていたというのだ。

また同月にはポイペトの建物2棟からオンライン詐欺をさせられていた外国人230人が救出。さらに同月、中国人が借り上げていた詐欺拠点の別建物からは、タイやインド、パキスタンなどの外国人200人以上が救出された。こうした報道を見るだけで犯罪組織が手を広げているのはミャンマーだけに留まらないことがわかる。

2023年末、筆者はタイとカンボジアの国境を訪れた。タイ側からポイペトのカジノホテル群を眺めると、普通のホテルのように見える。だが、その多くは中国人マフィアが実質支配した詐欺拠点になっているというのだ。

「もちろんすべてのホテルではないですが、複数のカジノホテルが詐欺の拠点となっています。『オンライン賭博サイトの管理者募集』などと偽の求人で集められた人々がホテルに監禁され、強制的に詐欺に加担させられたり、売春を強要されたりしています」(タイの日本人駐在員)

夜になるとカンボジア側の建物にはネオンが輝く。タイ側は街灯も少なく壁向こうとの差を感じる(写真/Soichiro Koriyama)
夜になるとカンボジア側の建物にはネオンが輝く。タイ側は街灯も少なく壁向こうとの差を感じる(写真/Soichiro Koriyama)
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こうした状況はラオスも同じ。特に有名なのが、世界有数の麻薬密造地帯で有名な国境付近の特区内で、カジノホテルを経営する中国系実業家の趙偉(チョウ・イ)という人物だ。

「2018年、米国財務省は趙偉のビジネスネットワークを、カジノを隠れ蓑にした国際犯罪組織だとして制裁を科しています。この実業家は、カジノ、ホテル、ナイトクラブ、人身売買から資金洗浄や麻薬にまで手を染めているといわれますが、こうした類の人物が取り仕切る犯罪拠点は、国境地帯に無数に点在しており、今も多くの被害者が奴隷になっている」(前出・ジャーナリスト)

最新の情報によれば(2月25日現在)、ミャワディでは犯行に関わっていた2つの日本人グループが存在し、約20人が関係していると日本のANNが報じている。

また、現地特派員の話によれば、「彼らは中国人らと共謀して日本人を騙し、現地に送り込むブローカーの役割をしていると見られている」という。

一方、今回の大規模摘発により、元締め級の首謀者たちはすでに逃亡を図っているとの情報もあり、国際的な人身売買と犯罪ネットワークは、今も広がり続けている。

取材・文/甚野博則 写真/Soichiro Koriyama