カネを稼げないならお前の臓器を売るぞと脅された者も…
こうした犯罪拠点はなぜ摘発されないのか。そんな疑問をタイ人に投げかけてみると、彼はこう続けた。
「表向きは中国系企業と組んで都市開発を行なっているように見せている。そのためミャンマー国軍の関係者やミャンマーの国境警備隊が敷地の内外を警備しています。詐欺の拠点だと知りながら、彼らにとってもカネになるため長年そうやって関わってきた」
現地のジャーナリストが言う。
「救出されたバングラデシュ人の話によると、『敷地から逃げ出そうとすると、武装した見張りにより暴行や電気ショックを受ける』と語り、彼らはパスポートや携帯電話を取り上げられていたという。監禁された後は、高額な身代金を支払えば釈放されることもあるが、金がなければ死ぬまで労働させられる」
これまでに救出された外国人の中には妊婦もいた。働かなければ堕胎させると脅されていたことも現地メディアで報じられている。
また、ネットの偽求人に騙されてミャワディに連れて来られた外国人の夫婦もおり、こうした犯罪組織が無差別に人を集めていたことがよくわかる。
「KKパークでは詐欺によって大金を稼いだ際、その功績を称えるかのように敷地内で打ち上げ花火が上げられた時期もあります。一方で、詐欺のノルマを達成できなかった者に対しては、処罰や暴行が日常的に行なわれている。
天井から吊るされて殴られる者の悲鳴が響き、周囲の者を恐怖に陥れていた。カネを稼げないならお前の臓器を売るぞと脅された者もいる。仕事ができない者や、詐欺の成功率が低い者は暴行を受けるだけでなく、別の犯罪集団に売り飛ばされることも」(同前)
ミャワディの詐欺拠点にちらつく中国の影
こうした犯罪集団の正体は主に中国系の組織だ。実は中国政府は、2023年7月、ミャンマー北部で通信やネット詐欺犯罪に対する特別作戦を展開し、2024年末までに約5万3000人の中国人詐欺容疑者を逮捕している。
このとき、首謀者とされていたのが「四大家族」と呼ばれるグループだ。四大家族とは、2009年以降、ミャンマーと中国の国境地域において、地域の政治・経済・軍事を実質支配してきた4つの華人系一族のこと。
彼らはオンライン詐欺、密輸、人身売買、不法賭博などの違法活動に深く関与していた。今はもう中国政府の摘発により四大家族は権勢を失ったとされているが、残党たちが今も暗躍していると見る関係者も多い。
もちろんミャワディの詐欺拠点にも中国の影がちらついている。
例えば、シュエコッコでは香港の亜太国際控股集団(ヤタイ・インターナショナル・ホールディング・グループ)が150億ドル、現在のレートで約2兆3千億円を投じるとして未来都市の建設を計画。その亜太集団を率いていたのが佘智江(シェ・ジージャン)という人物だ。
別のジャーナリストが言う。
「佘智江は、フィリピンでオンライン宝くじ事業に成功した後、カンボジアやミャンマーに進出し、2017年以降にミャンマーで巨大な開発プロジェクトを推進した。同社は表向き、不動産開発や観光リゾート、カジノ運営などをうたっているが、実態としてはオンライン賭博や通信詐欺など、違法事業の運営や資金洗浄に深く関わっているとされる。
佘智江は中国籍を放棄し、カンボジア国籍を取得する際に改名。摘発を逃れるための戦略として、外国籍を取得し、法の目をかいくぐる体制を整えたが、2022年8月にタイで逮捕されました。
また、KKパークの元締めとされているのが、香港やマカオを拠点とする犯罪集団『14K』の関係者と福建省系マフィアだとされています」