なぜ中国でEVは売れているのか? のシンプルすぎる答え「車両価格、燃費、保険、メンテナンス費用など全てをひっくるめると…」
2021年から爆発的に売り上げが伸びている中国でのEV・PHEVの販売台数。2024年には世界全体の市場の約7割を中国で売り上げた。ガソリン車がまだまだ強い日本ではEV市場はいまだ成熟していないが、中国市場では成長し続けている。
『ピークアウトする中国「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』より一部を抜粋、加筆・編集しそのシンプルな理由を解説する。
ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 #1
車両価格、燃費、保険、メンテナンス費用などを全部ひっくるめると
しかし、自動車にかかるコストは燃費と車体価格だけでは評価できない。修理費用を考えると、EVにはバッテリーという、製造コストの20~30%に相当する高額な部品があることがネックとなる。
故障や経年劣化での交換は高額だ。劣化によって年々航続距離が落ちていくのはあまり楽しい話ではない。何より中古で売却する時に価格が落ちてしまうのではないかという不安もある。また、修理費の高さから自動車保険も高い。
購入後の費用を見ると、燃料代(電気代)とメンテナンス費用はEVが安く、修理費と自動車保険はEVが高い。付け加えると、残価率(新車と比べた場合の中古車の売却価格比率)ではEVの分が悪い。
俗にバッテリーが劣化するためと言われるが、より高性能な新車がもっと安く売られるようになるので、旧車の価値が落ちるという要因が大きい。だが結局、車両価格、燃費、保険、メンテナンス費用などを全部ひっくるめて判断すると、EVのほうがお得感があるというのが共通認識のようだ。
もちろん、人によって車へのこだわりは違うが、「なぜ中国でEVが売れるのか?」という問いの答えは「安いから」という経済合理性で説明がつく。
日本だとエコのために高いEVを買いましょう的な話となっているが、中国はまるで違う。「安くてお得だからEV」という別世界が広がっている。
写真/shutterstock
ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界
梶谷 懐 (著), 高口 康太 (著)
2025/1/17
1,210円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4166614813
「2020年新書大賞」にランクイン
『幸福な監視国家・中国』の著者2人による第2作目!
不動産バブルが崩壊し、今世紀最大の分岐点を迎えた中国経済。
このまま衰退へと向かうのか、それとも、持ち前の粘り強さを発揮するのか?
『幸福な監視国家・中国』で知られる気鋭の経済学者とジャーナリストが、ディープすぎる現地ルポと経済学の視点を通し、世界を翻弄する大国の「宿痾」を解き明かす。
◎「はじめに」より
中国経済に関する書籍はしばしば、楽観論もしくは悲観論、どちらかに大きく偏りがちである。
そうした中で本書の特徴は、不動産市場の低迷による需要の落ち込みと、EVをはじめとする新興産業の快進撃と生産過剰という二つの異なる問題を、中国経済が抱えている課題のいわばコインの裏と表としてとらえる点にある。
なぜなら、これら二つの問題はいずれも「供給能力が過剰で、消費需要が不足しがちである」という中国経済の宿痾とも言うべき性質に起因しており、それが異なる形で顕在化したものにほかならないからだ。
「光」と「影」は同じ問題から発しているのだ。