長かった中国EV、冬の時代
なるほど、これだけの手厚い補助があればEVが売れるのも当然……というのは勘違いだ。支援政策が始まってから10年、中国のEVはさっぱり売れなかった。もちろんゼロではないが、タクシー会社はEV利用を義務付けられてやむをえず、一般消費者はナンバープレートを手に入れられなくて「仕方なく」買ったというケースがほとんど。
その当時、中国でEVタクシーに乗るたび、運転手に使い勝手について質問したが、航続距離が短い、充電している間は仕事ができない、充電ステーションは故障だらけでその場に行かないと本当に使えるかわからない、とネガティブな話ばかりだった。
誰も欲しがらないのに補助金はたっぷりもらえるといういびつな構造だったので、当然のように詐欺も起きた。2015年ごろ、大規模な購買補助金詐欺が摘発された。EVが売れたといつわって補助金をせしめる、同じ車両を何度も売ったことにして何重にも補助金をもらうという悪質な詐欺が横行していた。
2020年までにEVに拠出された購買補助金は489億ドル(約6兆9000億円)に上る。これだけの金額をぶっこんでもEVが普及する気配はない。これでは、単なる税金の浪費だ。補助金はやめてしまえ。EV企業が潰れるならそれもしかたがない……という声が高まっていった。
中国政府はEV支援を撤回することこそなかったものの、購買補助金の支給額は次第に引き下げており、EV産業全体がもはや風前の灯火とも噂されていた。
象徴的な存在が中国版テスラと言われるニオ(NIO、蔚来汽車)だ。2018年9月にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場したが、その直後から株価は低迷。巨額の赤字に加え、将来の利益の見通しが立たないと投資家に嫌われた。
20年初頭には倒産の危機に見舞われていたが、安徽省合肥市(あんきしょうごうひし)の政府系投資ファンドからの出資でどうにか生きながらえる。ある中国ベンチャーキャピタルの関係者によると、ニオは日本のベンチャーキャピタルを含め多くの機関投資家に支援を打診したが、ほとんど断られたという。