更新が追いつかない老朽化インフラ。専門家「いつこうした事故に遭うかわからない」
一方で、宇都教授は今回のような大規模な陥没事故は異例であるとも指摘する。その要因は、いったい何なのだろうか。
「さまざまな要因が複合的に絡み合っていますが、ひとつ挙げられるのは、下水の流量が多い立地であることです。あの場所は下水処理場の近くにあり、大規模な管路が破損すれば、大事に至ってしまいます。
生活排水を止めるわけにはいかない以上、下水の流れを完全に遮断するのは至難の業なんです。浄水のように、浄水場からの水をカットすれば流れなくなる、という仕組みではないので。
今回の事故は、まさに『陥没が起きたら、もっとも深刻な影響を及ぼす場所で発生してしまった』という状況です。まさに『よりによって、そこか……』という思いですね」
また、宇都教授は、こうした事故の背景には国内インフラの老朽化が影響していることも指摘する。
「戦後復興の際に、急速に管路を整備したため、全国的に同じようなタイミングで更新時期を迎えており、その数は膨大になっています。しかし、工事は予算の範囲内でしか実施できず、手が回ってないところはあるでしょう。
ただ仮に今後、十分な予算が確保できたとしても、今の日本は人口減少が進んでおり、人手も人材も不足しています。むしろそっちがネックで、なかなか工事できないかもしれません」
これらの要因を踏まえたうえで、宇都教授は今回のような陥没事故について「それほど頻発するものではないだろう」としつつも、「どこで発生してもおかしくない」と警鐘を鳴らしている。さらに、市民ができるせめてもの対策についても語ってくれた。
「国交省が通達を出しましたが、やはり点検を強化するしかないと思います。
ただ、八潮も2021年に点検を行っていたはずなので、わずか3年で事故が発生していることを考えると、単に点検を増やすだけではなく、点検の精度を向上させることもあわせて進めなければ、今回の教訓は活かされないでしょう。
市民レベルで重要なのは、今回の事故を通じて『老朽化したインフラが身近に存在する』という事態に気づくことです。『いつ自分がこうした事故に遭遇するかわからない』という意識を持つことが大切だと思います。
個人でやれる対策としては、『行政が毎日点検して回るわけにはいかない』ということを前提に、陥没は発生前に路面に亀裂が生じていることが多いので、見つけたらすぐに通報する、ということくらいでしょうか」
“災害大国”といわれる日本。地震や台風だけでなく、今後は陥没事故についても念頭に置きながら生活する必要がありそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班