児童相談所で「父に期待することはない」が、母には感謝していると話した 

そして訪れた運命の2024年2月。事件が起こるたった5日前、父親は児童相談所に再び、「子どもが非行傾向で対応に困っている。相談したい」と助けを求めていた。

「それまで日常的に(Aとの生活が)うまくいっていなかった上に、中身は話せませんが、直近に突発的なことが起きた状況だったようです」(児相幹部)

この電話で父親と児相は8日に面談をする約束を交わしていたのだが、その直後にAはコンビニで万引き事件を起こしていた。

「事件が起きたのは、2月6日の早朝でした。捕まった少年は暴れはしませんでしたが、『警察や親に連絡しないでください。お願いします。勘弁して』と訴えていました」と話すのはコンビニ関係者。

「店の事務所で防犯カメラを見ていた店員がAの行動に気づきました。Aを事務所に連れていって『バッグの荷物を全部出せ』というと素直に従い、盗んだおにぎりと大福、野菜ジュースの他に、カッターナイフとタバコが出てきました。

盗んだ3点の金額は合わせて500円ほど。Aは店内のATMで現金を引き出していて財布には数千円が入っており、『なぜ金があるのに盗むんだ?』と疑問に思いました」(同前)

この日は平日だったが、Aは通っていた進学校の制服ではなく黒のジャンパー、ジーパン姿だった。通報で店に駆けつけた警察官らがAから事情を聴いている間に、連絡を受けた母親も店に到着したという。

「お母さんは従業員に『すみませんでした』と謝りながら、『最近(息子の)トラブルや非行が多くて』と話していたみたい。『ウチはお父さんが厳しい人で』とも言っていて、Aの尻拭いに追われている感じで大変そうでした。Aは警察官に『万引きしたのは今回が初めてだ』と言っていたようだけど……」(同前)

8日には児相との面談は予定通り行われ、Aも同席した。だがこの面談の際には、2日前の万引きやカッターを所持していた事実は警察から児相に伝えられていなかった。

「父親からの相談に基づく『育成相談』という手続きで、まず担当者が親子3人と面談しました。Aは望んで来たのではないという表情でしたが、両親が席を外した後、担当者と一対一になると率直に思いを話していました。『父に期待することはない』と言い、母親に対しては感謝を口にしていました」(児相幹部)

Aと両親が暮らしていたマンション(撮影/集英社オンライン)
Aと両親が暮らしていたマンション(撮影/集英社オンライン)

話し合いの中で虐待やDVといった「危険なエピソード」が親子双方から出なかったため、児相はAへの関与を「緊急対応」に切り替える判断を見送った。

児童福祉士などを加えた援助方針会議を15日に開き今後の方針を検討する、と告げると両親は受け入れ、帰路に就いた。

しかしそのたった2日後、事件は起こってしまった。

「検察によれば、Aは高校に入学後、学校になじめず暴走族に加わって、外泊を繰り返すようになっていたそうです。

事件当日、再びコンビニで万引きを犯したAは警察署に迎えに来た父と帰宅。交際相手に会いに行くのを阻止されたため、父親を殺害し、その後、帰宅した母親に対しても通報されるのを阻止しようと考え、殺害したとみられている」(前出・社会部記者)

横浜地方裁判所(PhotoACより)
横浜地方裁判所(PhotoACより)
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裁判では、Aは父親の殺害について、「父に対する恐怖心や束縛感、小さい頃からのことがフラッシュバックして恨みが大きくなり、恐怖感から逃れたいと思った」と認める一方、母親に関しては、「いっそ、殺してくれと話された」「母親を1人残すことはかわいそうだと思った」などとし、嘱託殺人罪が成立すると主張している。

「被告人質問でも焦点が当てられたように、弁護側は両親からの虐待や、不適切な養育環境で育ったことが事件の背景にあると訴えています。両親が亡くなっているだけに、少年の証言が今後の裁判のカギを握ることとなる。

そのため検察側は少年の証言の信用性に着目し、関係者の証言との矛盾点などをぶつけていた」(同前)

家庭という閉鎖的な空間で、一体何が起こっていたのか。2月10日に行われる論告で検察がどのような見解を示すか、注目が集まっている。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班