「結局なにが正しいかなんて、わかんないんですよ」
桜金造は、自身の怪談についてこう振り返る。
「私の怪談はね、全部実話なんですよ。
広島の親戚から聞いた、戦争後の悲惨な話とか、急にいなくなってしまった人間が言っていたこととか。
だから、オチらしいオチがないし、話が符合しないこともあるんです。
それが怖いんだと言ってくれる人も多いんですけれども、それでは満足しない人たちもいる。テレビとか映像の人たちはそうでした。
“その怪しい人影の話だけど、 君が見たのは男だよね。女にならねえかな。女のほうが怖いから”とか、そういうこと言ってくる。
いろいろ脚色されて、なんだか違うものに出来上がったりしてね。それも求められているものだから仕方ないんでしょうね。演出が必要なのが、映像業界、ひいては芸能界ですから。
だから、私から離れて映像化された怪談は、ぜーんぶ嘘だったんです」
とはいえ、今の芸能界を否定はしない。
「今の第一線の人たちは、本当に素晴らしいと思いますよ。
お笑いにしろ、音楽にしろ、先人が作ったものを、よりクオリティを上げて作っているわけですから。
コンプライアンスがどうのこうの…というのも、時代は変わっていくものですからね。
私なんかのお笑いが今通じるか、といったら、まあ無理でしょうね。だって、本当に生意気で、周りをバカにしていましたから。いろいろ学んだ今、恥ずかしくてしょうがないですよ。
“今の作品は昔のものよりおもしろくない”なんていうのは、どうかしていると思いますね」
表舞台からは遠ざかったものの、今の生活は「決して不幸ではない」と語る。
「答えが出ないことを、ずーっと考えていられるようになったことが、私にとって幸せだと思いますね。
結局なにが正しいかなんて、わかんないんですよ。
そうそう、入院していたときにね、余命いくばくもない人と仲良くなったんですよ。
その人がね、ポツッとね『結局ね、何にもわかんないんだよなって、わかんないまま終わっちゃうんだよな』って言ったのね。とってもね、しみましたね。
渥美清さんがね、『そういやあの人、最近見ないよね、っていうような感じで、消えるのが理想』って、言っていたそうなんですよね。引退とかではなくて、フェードアウトですよね。
私の場合、人前に出られなくなったのは強制終了ですからね。だから、ある意味ね、清々しいっちゃ清々しいんですよ。
最近は、小倉百人一首の句を改めて知って、感動しましたね。
もうすぐ病気で死ぬ…という人が、『あの人のことを思うともう少し生きてみたいと思う』とか、『あの人はいま、どこでこの月を見ているんだろう』とか。
今の人たちにも通じる、せつない気持ちがたくさん歌われているんですね。
人の気持ちが理解できるなんておこがましいことを簡単に言いたくはないですが、共感するって、本当に感動ですよね」
生きているからこそ、悲しむことも、感動することもできる。桜金造はまだ、生きている。
【プロフィール】
桜金造(さくら・きんぞう)1956年、広島県生まれ。'75年に『ぎんざNOW!』でデビュー後、コメディーグループ「ザ・ハンダース」を結成。その後、アゴ勇さんとのコンビ「アゴ&キンゾー」でも活動。俳優としても活躍し、伊丹十三監督の映画『タンポポ』『マルサの女』などでも存在感を発揮。芸名の名付け親は故・松田優作さん。
取材・文/木原みぎわ