島内の関係者から「怪しい人物がいる」と情報を聞いた夫婦

大久野島に25年通い続け、ウサギを撮り続ける「うさぎ写真家uta」を名乗る写真家、中村隆之さんと中村麿矢さん夫婦は昨年12月に、不自然なウサギの死骸が多く見つかっていることを聞いていたという。

「25年通い続ける中でも、そんな10匹単位で死骸が見つかることはありませんでしたし、あまりそんなことを考えたくはありませんでしたが、誰かが故意に殺めているのではと思いました。

そんな中で1月20日に大久野島を訪れ、翌21日に島内の関係者から“ニンジンを持ち歩き、ウサギをおびき寄せている怪しい人物がいる”との情報を聞きました。

僕ら夫婦は直感的に、その者を取り押さえたいと思いました」

大久野島には500匹以上のウサギが住んでいるという(写真提供/うさぎ写真家uta)
大久野島には500匹以上のウサギが住んでいるという(写真提供/うさぎ写真家uta)

夫妻がその情報を聞いたのは21日14時頃。島内の地理を熟知する夫妻は周辺を散策し、16時頃にまさにニンジンを手にしてウサギをおびき寄せている堀田容疑者を発見した。

「ちょっと傷んだようなニンジン1本を片手に持ち、そのウサギを捕まえるような動きをしていました。そして周囲を見渡しながら、人目のつかないような所を探しているような素振りもしていました。

僕ら夫婦はその男から20m以上離れた位置から1時間半ほどは尾行していましたね」

堀田陸容疑者がウサギにニンジンをあげようとしている様子(写真/うさぎ写真家uta)
堀田陸容疑者がウサギにニンジンをあげようとしている様子(写真/うさぎ写真家uta)

そして、堀田容疑者が犯行に及んだのは17時半頃。足元にいたウサギを蹴り飛ばしたのだという。

「離れていたのでどの程度の強さで蹴っていたか、どんな蹴り方かはわかりません。蹴っているような行動を見ました。その酷い行為に怒りが湧き上がり、男の元に駆け寄り腕をグッとつかみました。

それと同時に“ウサギを殺して楽しいか!?”と聞きました。男は驚いた顔をして、それと同時におどおどしていました」

堀田陸容疑者(写真/うさぎ写真家uta)
堀田陸容疑者(写真/うさぎ写真家uta)

中村さんは堀田容疑者が暴れて逃げださないように両手をガッチリとつかんでいた。堀田容疑者に蹴られた足元にいるウサギは息も絶え絶えの状態だった。

「男に蹴られたウサギは、しばらく痙攣していましたが、これは助からないと目視でわかるような状態でした。亡くなるまでほんの数秒だと思います。ウサギは繊細で、か弱い動物ですから…本当に可哀想です」

男を捕まえた際に島のスタッフがバスで通りかかったため、そのスタッフから中村さんたちの宿泊先である「休暇村大久野島」の総支配人に連絡を入れ、その支配人が竹原警察署に通報を入れた。

「男を捕まえた後に“なんでこんなことをしたんだ?”と聞くと、“可愛いから”と言いました。これまで去年11月や12月にも複数のウサギの死骸が見つかっているが、その時もこの島に来ていたのか聞くと“はい”と、ひと言。

そしてウサギを殺したのかと聞くと“はい”と、素直に犯行は認めていましたね。名前や住所を聞いたら、それにも素直に答え、逃げようとしたり暴れたりはしませんでした」

その後、19時前に竹原警察署の警察官がやってきて、堀田容疑者はその場で動物愛護法違反の疑いで現行犯逮捕された。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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その後の警察の調べに対し堀田容疑者は容疑を認め、「去年から何度も来て同じようなことをした。ウサギが可愛いと思う反面、いじめたらどんなリアクションをするのか気になった」と供述している。

中村さんは「人間がこんなことをして、本当にウサギに申し訳ない思いです」と語る。

「とても憤っています。なんで殺したのかという問いに“可愛いから”と答えた犯人の動機がわかりませんでした」

可愛いのであれば、愛でるものではないのか。ウサギは声帯を持たないため、猫や犬のようにわかりやすく鳴き声を発さない。しかし、人間にもよく懐き、実に愛らしい動物だ。

同じようなことをする者が二度と現れないことを願うばかりである。

取材・文/河合桃子 集英社オンライン編集部ニュース班

サムネイル写真/うさぎ写真家uta