「売ろう」と思っても、もう遅い?

このようなギリギリの状態が予想されるなか、それでも多くの人々がタワマンを購入するのは、次のような理由があるからだと牧野氏は指摘する。

「彼らの頭の中には、ちょっと苦しくても、いざとなれば物件を売ればいいんじゃないか、という期待があるはずです。現在もタワマンの価格は上がり続けていますから、その状態がいつまでも続くと思っている。

ところが、不動産マーケットは、住人が支えているのではなく、投資家で支えられているのが怖いところです。そこにはタワマン節税を目論む人など、いろんな思惑を持った投資家がいる。同じタワマンの購入者でも、彼らの思惑とはまったく違います。

投資家からしてみれば、所有物件の価値が下がったらリスクを避けてすぐに売り逃げます。特に外国人であれば、円高に振れると、自国通貨に換金したほうが得になるので、躊躇なく物件を売る。ただ、不動産の非常に怖いところは、全員が売りに回ると、買う人がいなくなり、暴落に歯止めがかからないこと。

そこで取り残されるのは、実際に住んでいるパワーカップルなんです。彼らにしても、自分の収入の中でローンを返していればいいわけですが、払えなくなったときに売却しても、売却額ががローン元本を割り込んでいる可能性があります。

そして、こういう話題が話題になればなるほど、マーケットにはネガティブな情報が出回り、さらに多くの人が売りに回るようになる。そして、さらにマンション価格の思わぬ下落を見せる可能性がある。これが2025年以降で考え得る最悪のシナリオです」

絶望するパワーカップル
絶望するパワーカップル

不動産市場のメカニズムを理解して、冷静になることが大事

牧野氏は、さらにこう警告する。

「このように、不動産市場のメカニズムは単純なのですが、近年のタワマン市場を見ていると勢いで買っている人も多いです。2025年以降で考え得る最悪の悪いシナリオも踏まえて、首筋が寒くなった人は早く売った方がいい、と私は警告しています。

また、大前提として、日本でいうパワーカップルは世帯年収1500万円や2000万円だと定義されているんですが、これは国際的に見れば全然パワーがありません。「日本の中ではいい」程度にすぎません。これもしっかりと認識する必要があります。簡単に言えば、奢ってはいけない、ということです」

多くの人を狂乱させる力を持つ「バブル」。しかし、それは常に「崩壊」の危機と紙一重だ。狂乱から一歩身を引いて、「タワマンバブルの崩壊」について考えなければならないときが、来つつあるのかもしれない。

#1はこちら

取材・文/谷頭和希 写真/Shutterstock

〈プロフィール〉
牧野知弘(まきの・ともひろ)

オラガ総研株式会社 代表取締役/不動産事業プロデューサー
1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、三井不動産に入社。2009年オフィス・牧野、2015年オラガ総研を設立、代表取締役に就任。著書に「空き家問題」「なぜマンションは高騰しているのか」(ともに祥伝社新書)、「家が買えない」(ハヤカワ新書)等。文春オンラインでの連載のほか、テレビ、新聞等メディア出演多数。