岡本教授が“秀逸”と推すバトロワ作品は?
そもそもなぜ『イカゲーム』シーズン1は、あれほどヒットしたのだろうか。バトロワ作品が流行する社会的背景について聞いてみた。
「コロナ禍でネトフリなどサブスクサービスの加入率があがったことも一因ですが、2021年は国内でも『鬼滅の刃』が大ヒットしました。コロナ禍で外出を禁止されるなど抑圧された不自由な世界の中で、『生き残りをかけて戦う』という趣旨の2作品が流行ったのは状況の妙もあったのかもしれません」
振り返ると2000年前後、『バトル・ロワイアル』や『デスノート』、『賭博黙示録カイジ』など国内でバトロワ作品のブームが起こった。そこには、当時の「新自由主義」の価値観の浸透が大きく影響していると色々な専門家から指摘されている。
「小泉純一郎元首相の郵政民営化に象徴されるように、政府の経済介入を抑え、自由競争によって経済の発展を実現すべきという『新自由主義』の価値観が浸透し始めたころです。『価値ある個だけが生き残る』という価値観が作品にも反映され、『最後は社会が助けてくれる』という安心感が得られない世界を比喩的に表現していると読み取れます。
現在も自国中心主義が加速し、個々で争う時代という意味ではバトロワ作品が流行る土壌はあるのかもしれません」
ここまで話を聞き終えて、個人的に岡本教授が“秀逸”だと思うシリーズ化したバトロワ作品を聞いてみると、
「先日、改めて見直して関心したのは、実写映画『デスノート』の前後編です。
いわゆるゼロ年代的な価値観が体現された作品で、『生き残るためには相手の裏をかいて先に残酷な決断をせねばならない』という世界でした。
作品の終わり方が前後編とも素晴らしかったです。前編の閉じ方も『後編はどうなるのか』と、原作既読のファンとしてもワクワクしましたし、後編の閉じ方も着地点が明確で綺麗でした。ただ『イカゲーム』との大きな違いは、『デスノート』は漫画原作があり、当初から前後編で物語が構成されていた点です。
『イカゲーム』の場合は1作品目をまずは綺麗に終わらせた、それがヒットしたから2作品目を作ったという前提条件が違います。最初から漫画原作で閉じた物語を3つに分割しているわけではないので、そこは難しいポイントですが、シーズン3の出来栄え次第ではシーズン2も新たな位置づけができ、評価が大きく変わる可能性があります」
今年夏にシーズン3が配信予定の『イカゲーム』。どんな展開が繰り広げられるのか、一視聴者として期待したい。
取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部