「男が育児うつになるなんて…」
あまり子どもは得意なタイプではなかったが、それでも娘はたまらなく可愛かった。
専業主婦の妻が家事全般を担い、仕事から帰宅後はタカさんが育児を担い、夜泣き対応やミルク当番もこなす日々。しかし、育児の疲れや重責がストレスとなり、徐々にタカさんの心身を蝕んでいった。
「娘が1歳1カ月になったころ、いつものように趣味の読書に浸ろうと本を開いたんですけど、なぜか全く頭が働かず、字が上手く読めなくなっていました。
大学時代に一度、自律神経失調症を患った経験から、どこかあの時と似たような感覚を思い出しました。でも、一家の大黒柱である身の自分が、かつてのように気軽に地元に帰って療養するわけにはいかないと思い、耐え抜こうと思いました…」
しかし、徐々に症状は悪化。寝つきも悪くなり、些細なことで職場の同僚や妻、泣き止まない娘にもイライラを覚えるようになった。激しい胃痛に襲われたり、吐き気を催すこともあった。
「子どもという『自分で自分を守れない生き物』が1歳になると、勝手に動き出すんですよ。常にエンジン全開で、ヒヤヒヤドキドキの連続で、緊張状態がずっと抜けなかったですね」
そんな気持ちを誰にも吐き出すことはできなかった。
「どうして妻は無事で、僕が育児うつになっているのだろうか、男が育児うつになるなんておかしいじゃないかってずっと思ってました。
育児で寝れない、自分の時間がないっていうのは妻も一緒で、妻が育児している時間に比べたら自分の育児参加している時間なんて半分にも満たないのに。
妻に『午前中だけでも保育園に預けないか』と提案したこともありましたが、当時はコロナ禍だったので、他人に預けることを妻は嫌がりました」
結局、心療内科を受診することなく、胃薬や内服薬に頼りながら、うつ病と約2年間ともに生きた。