認知機能の低下で何が起こるか
しかし実際に認知症の人が急に怒り出したり、受けた人からすれば暴言や暴力と思うような行動をとったりすることはあります。そうした出来事や誤解を防ぐために、認知症の人の「注意障害」を理解しましょう。
認知機能が変化していく過程で生じるのが注意障害で、それは「見えているようで見えていない」「聞こえているようで聞こえていない」状態です。
健康なとき、私たちは何かに集中した注意を向ける一方で、広範囲にうっすら注意も向けていられます。そのため、リビングでテレビドラマに集中していたとしても、台所から名前を呼ばれるなどしたら、そちらに注意を向け、返答するなどが可能です。逆に、隣室で子どもが遊んでいてもあまり気になりません。注意を向けるものを選び、それ以外はうっすらと気にしている、使い分けをしているのです。
しかし認知機能が低下すると、自分が集中して注意を向けているものしか知覚できなくなり、別の方向から話しかけられてもその声は聞こえない。気配などを察知することが難しくなることがあります。
逆に、キャッチしたくない情報もすべて同等に流れ込んできて、刺激過多になる場合もあります。いま必要な情報と、そうでないものを分けて、受け取り方を変えることが難しくなるのです。
たとえば、正面に注意を向けている認知症の人に横から声をかけ、「○○さん、血圧を測りますね」と言って腕を持ったらどうなるでしょうか? 声をかけたつもりでも、注意が向いていない場合、聞こえていないのです。