メイクの心理的・身体的効果

国内では、資生堂の化粧療法プログラムが有名だが、同社は化粧療法の研究を長年にわたり行っており、その成果を公式ウェブサイトやブログ「化粧療法研究室」で公開している。

特に、以下のような研究内容が確認できる。

心理的効果:化粧が抑うつ傾向を改善し、自己効力感や外出意欲を高める効果
身体的効果:化粧動作が筋肉を活性化し、握力の向上や日常生活動作(ADL)の改善に寄与することだ

他にも、岡山大学は、認知症患者を対象とした化粧療法の臨床試験を実施し、以下の効果を科学的に証明している。

情動機能の改善:化粧療法直後から認知症患者の情動症状(BPSD)が改善
見た目年齢の若返り:AI解析により、化粧後の見た目年齢が若返り、喜びの感情が増加したことを確認

厚生労働省は、健康寿命の延伸を目指した政策の一環として、介護予防やフレイル(加齢によって心身の活力が低下し、要介護状態に近づいてきた状態)対策に注力している。

「キレイになあれ、まだ長生きしなくっちゃ」メイクで認知症予防や抑うつの改善を目指す”介護美容”セラピストの挑戦_2

吉岡さんは、リハビリ効果を期待し、自分でつけやすく、お湯で落とせる「水性ネイル」を使っている。

「ネイルペンをひねる行為で認知機能の低下を防げます。救急搬送された時などは、アルコール消毒液で、一瞬ではがずことができます。

また、抗がん剤治療をしている方の爪にも優しいです。抗がん剤をしていると爪が黒ずむのですが、好きな色を塗ると、前向きな気分になれるといいます。

お客さんの中には、障害者施設の部屋にこもりがちだけど、レクリエーションにネイルを取り入れたら、外に出てきてくれる人もいます」

ネイルを楽しむ利用者の女性
ネイルを楽しむ利用者の女性

ひきこもっている状態で、メイクも髪にも気を使っていなければ、ますます外出する気にならないだろう。メイクが、ひきこもりの人が外出するきっかけになるといいと吉岡さんは語る。