就職氷河期の子持ち就活
井田さんは妊娠・出産のため、5年で大学卒業を迎えた。
夫は「大学を出たら専業主婦になって欲しい」と言ったが、外で働きたかった井田さんは就職活動を始める。
ところが当時は就職氷河期、しかも井田さんは未就学児を抱えている。
井田さんは就活に挫折し、大学時代にアルバイトしていた小さな新聞社に就職した。
「本当は就活でも『旧姓を使用したい』と願い出たかったのですが、言い出せませんでした。
旧姓通称の使用はまだ一般化しておらず、『面倒なことを言う新卒』は採用されないのではないかと不安に思ったからです」
井田さんは子どもを保育園に預けながら働き続けた。
ところが2004年に2人目を出産後、子どもが病気になってしまい、やむなく退職。自分自身も産後うつになってしまった。
通院と並行して、フリーランスライターとしての仕事を始め、徐々に自信をつけていく。
寛解まで時間がかかったが、20年近く井田姓で記事を書き、企業広報としても働いてきた井田さんは、気づけば38歳になっていた。
「『名字を変えたくない』という子どもたちの希望もあったので、38歳で離婚したときは旧姓には戻さず、婚氏続称を選びました。
私が味わったように、望まない改姓の苦痛は、子どもたちにとってもいい影響を与えないと思ったからです。それに今さら生まれ持った氏名に戻しても、キャリアの継続性が保てないと考えました」