キャッシュがなく、在庫を確保できない

大黒屋は2022年3月期の売上高が前期のおよそ1.4倍に急拡大していた。

2021年3月期はコロナ禍で消費が低迷、在庫が積み上がっていたのだが、リベンジ消費と豊富な在庫で、大幅な増収を成し遂げていたのだ。

さらなる消費拡大が望める2023年3月期以降は買取を強化し、在庫を積み増すタイミングだ。それが増収に向けた仕込みとなる。

しかし、2023年3月末の在庫は前年の31.3%減少して15億円となっている。加えてこの期は3割近い減収だった。

大黒屋ホールディングスの期末在庫と売上高のグラフ ※「アップデート版_中期経営計画」より筆者作成
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6993/tdnet/2535826/00.pdf
大黒屋ホールディングスの期末在庫と売上高のグラフ ※「アップデート版_中期経営計画」より筆者作成
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6993/tdnet/2535826/00.pdf

じつは、大黒屋は2024年3月期中に返済しなければならない長期借入金が12億円、短期借入金が35億円もあった。

2023年3月末時点の現金は9億円あまり。赤字が続いていたことに加えて負債比率が高く、自己資本比率は8.6%と危険水位である。

金融機関からの追加の借入も簡単ではなく、中国での事業拡大など夢物語に近かったのだ。

つまり、買取を行って在庫を積み増したいと思っても、先立つものがないという状態だったのである。

2024年3月期は6億円近い純損失を計上し、自己資本比率は0.0%。債務超過ギリギリにまで追い込まれてしまう。

借入に依存しない資金調達を行っているが

大黒屋は2023年から代表取締役社長の小川浩平氏を割当先とし、融資の返済に必要な資金を調達するため、転換社債と新株予約権を発行している。

転換社債や新株予約権には転換価額・行使価額が設けられており、設定されている額よりも株価が上回っていれば、割当先は差益を得ることができる。安く仕入れることができるからだ。

例えば小川氏は、2024年7月16日に転換社債で350万株あまりの株式を取得し、同日に310万株を市場内で処分している。

行使価額は28円で、この日の終値は39円。39円で処分できたとして、税金や経費を考慮しなければ、この日だけで3400万円の利益が出ていた計算だ。小川氏は同様の取引を繰り返している。

一方、会社は行使されることで確実な資金調達が行える。借入ではないため、負債が経営を圧迫することはなく、むしろ、自己資本を強固なものにする資金調達方法だ。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
写真はイメージです 写真/Shutterstock

会社にとって都合のいい資金調達手段であることは間違いないのだが、この手法は株式の希薄化を招くため、株価が下がりやすく、既存の株主が割を食う仕組みになっている。大黒屋の12月2日時点での株価は29円だ。

転換社債や新株予約権は株価が転換価額・行使価額を下回るなど、引き受ける側にもリスクはある。

しかし、大黒屋が金融機関からの借入の返済に窮するほどの経営を続けている張本人が既存株主を犠牲にし、自らは儲けを出す資金調達手法に疑問を持つ株主も多いはずだ。

大黒屋はLINEヤフーやメルカリなどと提携し、買取を強化する取り組みを開始した。

Webを活用して買取ネットワークを広げるというものだが、これは根本的な経営課題の解決にはなりそうもない。

結局、大黒屋はなによりも先に負債を圧縮し、成長に必要な財務基盤を構築する必要があるからだ。

リユース市場は伸び盛りであり、経営体制を転換するフェーズに入っているように見える。

取材・文/不破聡  

※本記事の大黒屋(https://corporate.daikokuya78.com/)は、オレンジ色の看板の大黒屋(本社:東京都千代田区) https://www.e-daikoku.com/ とは別会社です