家族の姿をありのままに写した
家族に一筋の光が差し込んでいくように見えた矢先、2021年に姉は亡くなった。
「姉は最後まで病識はなかったので、生きているうちは作品として発表はできないと思ってました。
ただ、姉と僕は8歳差で、男女の平均寿命が6歳差前後なので、大体同じ年に寿命がくる。もし自分が先に死んでしまったら、作品は永遠に発表されないということもわかっていたので、そこは賭けでしたけどね。
姉は残念ながら亡くなってしまったので、まとめはじめたのはそれからです。
アーティスト・イン・レジデンス(註:一定期間ある土地に招聘された作家が滞在し、作品制作を行わせる事業)の『山形ドキュメンタリー道場』に参加し、映像素材を30分程度にまとめたものを持っていったんです。これをどう受け止めてもらえるかの確認の意味だったんですが、わりと好意的な印象だったので、じゃあ、映画を作ってもいいのかなと、本格的にまとめ出した」
『どうすればよかったか?』はナレーションやテロップも最小限にとどまり、劇伴もなく、そこで起こった事実のみを映像でひとつひとつ見せていく。情緒を排したストイックな編集作法が、観る者の心を揺らしていく。
「悲しい場面に悲しい音楽を流したり、ナレーションで状況をわかりやすく説明したりするのはよくない、それをやったらおしまいだと思っていました。テロップは、映像だけでは伝えきれない重要な事実を補足する形で使いましたが。
この作品が受け入れてもらえるかどうか、という疑問は作品完成からずっとあります。統合失調症を発症した人の映像は、ボカシがかかることがありますが、本作はモザイクをつけてません。当事者の人が見たらどう思うんだろうとか考えます。
ただ、自分ではこれを作らないで死んだら無念だったろうと思うし、姉さんの人生はなんだったんだろうとも思う。
自分はもともと感情表現が苦手なタイプでしたけど、姉の変調をきっかけに、本当に困るっていうのが、どういうことかが初めてわかった。おかげで人間らしくなった部分もあると思います」
引きこもり、DV、介護……さまざまな問題を抱えている家族が日本中にいる。『どうすればよかったか?』は自らの家族のあり方を隠すことなく見せることで、図らずも悩みを抱えている人たちにも訴えかける作品になっているのではないだろうか。
「周囲に相談できないことってあると思うんですが、まずは、事実を受け止めないと解決には進めないですよね。僕の両親は自分たちでなんとかしようと思ったんでしょうけど、できなかった。
もちろん両親にもいい部分はあったけど、病院に行かせなかったことと、家に鍵をかけたことは間違っていた。これは昔の話ではありますけど、今世に出してもそれほど古くはないし、これよりひどいことにはならないように見てもらいたいという意味で作った作品です」
取材・文/高田秀之 撮影/濱田紘輔
〈作品詳細〉
『どうすればよかったか?』
監督・撮影・編集:藤野知明
制作・撮影・編集:淺野由美子
編集協力:秦岳志
整音:川上拓也
製作:動画工房ぞうしま
配給:東風
2024年/101分/日本/DCP/ドキュメンタリー
12/7(土)より[東京]ポレポレ東中野、ヒューマントラスト有楽町ほか全国順次公開
【WEB】https://dosureba.com