男性芸能人たちから「姫」と呼ばれる存在
この頃の明菜のエピソードで印象的なことがある。
『ザ・ベストテン』『夜のヒットスタジオ』といった当時人気を誇った歌番組は出演歌手たちの歌唱はもちろんだが、それ以外に、司会者や共演者たちとのトークの掛け合いタイムもお楽しみだった。司会の黒柳徹子や芳村真理の軽妙なツッコミがもたらす、アイドルやスターのちょっとした素顔やプライベートの片鱗が、視聴しているファンにはうれしいものだったのだ。
そうしたトークタイムで、明菜はほかの男性芸能人からよく「姫」と呼ばれていた。
とくに記憶に残っているのがチェッカーズの藤井郁弥(現・フミヤ)にとんねるずだ。ことあるごとに「姫はさ……」「だって姫がそういったじゃん?」と明菜に呼びかけ、明菜も当たり前のように応える。
『ザ・ベストテン』はスタジオに来られない歌手には居場所まで追っかけ、中継で歌ってもらうのが売りの番組だったが、とんねるずの番組収録中だった明菜が「Fin」を歌った際に、石橋・木梨のふたりが即興で明菜の振り真似をしながらバックで踊ったのは最高だった。
とくに何事も器用な木梨による明菜の振り、歌いかたのしぐさのコピーは見惚れるほどだった。
「明菜、愛されてるなあ」……当時もちろんお茶の間のテレビからこうしたシーンを見ていた筆者は「姫……なんて明菜にぴったりな呼び名なんだろう」と思ったものだ。
それはもちろん明菜が当時とびきりのスターだったというのもある。けれどそれとは別に、明菜独特の繊細さ、神経質さ、危うさみたいなものを少しだけ遠巻きに扱うような、そんな特別扱いぶりと「姫」という呼称がぴったりに思えたのだ。
昭和の大スター・美空ひばりが「お嬢」なら、明菜は「姫」。
今でこそ歌姫だの○○姫といったたとえはくさるほどあるけれど、芸能界の元祖・姫といえばやっぱり明菜なのだ。聖子でもキョンキョンでもなく。
夢を叶えた慎吾少年とそれに応えた姫
「TATTOO」がリリースされた1988年、香取慎吾は11歳。この年の4月にSMAPが結成され、メンバーの中では最年少だった。
前年の1987年にジャニーズ事務所に入り、SMAPの前身ともいえる、ジュニア内のグループ「スケートボーイズ」のメンバーとして光GENJIのバックを務めていた。
そんな慎吾少年にとって当時の明菜はどんなふうに見えていたのか。
ひょっとしたら『ザ・ベストテン』にランクインした光GENJIの後ろにいながら、スタジオで明菜とすれ違うくらいのことはあったのかもしれない。
もしかしたらその頃に「TATTOO」の迫力あるヴォーカルを生で聞いたのかもしれない。
明菜は1989年の自殺未遂以降、活動を一時休止する。一方、SMAPは既存のアイドル像をくつがえす活動で、歌にドラマにバラエティにと、90年代以降、まさに八面六臂の活躍を繰り広げていく。
そのころの香取に、30年以上経って、大好きな楽曲を本人とコラボまでできるとは、まだ想像もできなかったのではないか。
憧れと夢を叶えた「慎吾少年」とそれに応えた「姫」の奇跡のコラボ。明日の楽曲配信が本当に楽しみだ。
くしくも今日、今年のNHK紅白歌合戦の出場歌手が発表された。
最近の紅白は特別枠やらなんやらで、大晦日近くまでサプライズ発表を小出しにしてくる。
今日の発表に明菜の名前はなかったけれど、望みはまだ捨てていない。
文/集英社オンライン編集部