困った富裕層による迷惑行為…「スイートで鍋パ」

どんなときだと、執事でも手に負えないのか。

「例えばレストランで、常連でもないにも関わらず、眺望のよい席に変えてほしいと言ったり、メニューにない料理をリクエストしたりします。あと多いのは、ホテルに『客室に食材を持ち込んで、その場で料理がしたい』と頼むことですね。今の季節ですと、『スイートルームで鍋パーティーをしたい』という要望は多いです。

ホテルの客室のなかにはキッチンなんてないので、当然できません。でも『それなりのお金を払っているから許されるのでは?」という思いから、そういった要求をしてしまうんです』

過度な要求も今回の事件も、自己顕示欲という意味では似ているかもしれません。ホテルに友人や親戚を21人呼んで器物破損するのも、『こんな無茶もできるような立場になったんだぞ。俺にはこれだけ力があるんだぞ』と周囲に見せつけたいからではないでしょうか」

「世界No1執事」と高評価を得る新井さん。著書は累計30万部を突破
「世界No1執事」と高評価を得る新井さん。著書は累計30万部を突破

「お金を持てば持つほど、ある程度のわがままは聞いてもらえるようになるからこそ、セルフコントロールをする必要がある」と新井さん。

それができている富裕層など、はたしているのだろうか。

「時間をかけて代々ビジネスを続けてきた後継者は、謙虚で周りへの配慮を怠りません。たとえば、もし今回のように100万円相当の破損をしたら、すぐに迷惑料も込めて200万円を払うでしょうね。

過去に一脚500万円の工芸品の椅子を壊してしまい、2倍の1000万円を払って謝られた方もいました。小さい頃からの教育が行き届いていれば、外で荒れることはないんです」

最後に、今回の事件のように、日本を訪れる海外富裕層がトラブルを起こすケースは今後増えていくか聞くと……。

「実際、日本を訪れる海外富裕層は増えています。ただ、温泉好きの方はプライベートジェットで熱海に行ったり、ハイアットのスパを訪れたりしていたりと、お金はかかっていますが、トラブルが増えたというは今のところ耳にしていません。カルピスを飲んでおいしさに感動して、500本を購入して持ち帰った方もいらっしゃいますよ(笑)」

――今後も訪日外国人が増えるだろうが、彼らが必ずしもなにかやらかすわけではないだろう。取材中の「『本物の富裕層』は意外とちゃんとして、普通の人よりも良識的だったりしますよ」という、新井さんの言葉を思い出される。

取材・文/綾部まと