Dさんの社会保険証を偽造。勝手に賃貸契約も
Dさんは「朝一番に入金しないと間に合わない」という江尻容疑者の言葉を信じ切り、往復4時間かけて愛知県に戻り、借用書も書かせずに口座から下ろした現金400万円を渡したという。
「そこからが地獄でした。江尻から『会社の口座が凍結したままだから、従業員の武田がマンションの部屋を借りられない。代わりに契約者になってほしい』と頼まれました。
でも、私は無職なので契約者にはなれないと伝えると、なんと江尻は私名義の社会保険証を偽造し、『これで大丈夫だから』と言って賃貸契約を結んでしまったんです」
さらに、江尻容疑者は「実は俺にはもう1人、秘書がいて……」と続け、前編にも登場したもう1人の秘書・浅野の携帯電話を契約してほしいと頼んできた。
「こうして時系列で話すと、『なんでそんなお願いを聞き入れたのか』と思われるかもしれませんが、とにかく江尻と武田の演技があまりにも迫真で……。まるで言うことを聞かないといけないような気持ちにさせられてしまったんです」
こうしてDさんの口座からは、毎月の賃貸料18万円と携帯代20万円前後が引き落とされることになった。その後も、江尻容疑者の「会社の新プロジェクトのために1300万円が必要だ」という言葉を信じ、Dさんはお金を貸し続けてしまった。
「武田からは『姫のために社長も必死なんです』と言われ、江尻からも毎日のように『ごめん。近日中に必ず倍以上にして返す』と言われ続けました。私も当時は江尻のことが好きで、なんとかして協力してあげたいという気持ちから、つい貸してしまったんです」
そうこうしているうちに、Dさんはあっという間に約2700万円もの金を江尻容疑者に貸してしまったという。
「結局、江尻と頻繁に会えたのは出会ってから最初の半年ほどで、そこからは1年半以上、会えない日々が続きました。そんななか、江尻と逮捕直前まで一緒にいたBさんから電話があり、江尻が結婚詐欺を繰り返していたことを聞かされたんです」
前編記事で取材に協力してくれたBさんは、実は江尻容疑者から勝手に「仲介役」的な役割に仕立てられていた。Bさんは、次のように言う。
「実は、私は江尻とバーで知り合い、他の被害女性たちと同じように交際することになりました。金の無心もされましたが、私は貸しませんでした。
でもその後、江尻は結婚詐欺で騙した女性たちに金を返すと交渉し、穏便に解決するために『弁護士を紹介してほしい』と頼んできたんです。さらに、被害女性たちに連絡して仲を取り持つようにと言われたのです」
Bさんは、江尻容疑者から「取れるものは根こそぎ取るのが、俺のモットーだ」という言葉も聞いたという。そうしてBさんはDさんに連絡を入れて江尻の本性を伝え、「2024年末までにはすべての借金を清算させる」ことを約束させた。Dさんは言う。
「私はてっきり2024年末には解決すると信じていたのですが、10月11日に江尻が逮捕され、もうお金は戻らないとわかり絶望しました。この体では働けないし、これからどうやって暮らしていけばいいのか。あれ以来、頭痛薬と安定剤、睡眠薬が欠かせません」