思春期前の少年を不安にさせた『まことちゃん』

楳図かずおが亡くなったというニュースに触れ、まず思い出したのは氏の代表作のひとつ『まことちゃん』だった。

『まことちゃん』は、小学館の「週刊少年サンデー」に、1976年から1981年にかけて連載された。

本稿筆者は1969年生まれなので、その連載期間はガッツリ小学生時代に当てはまる。

楳図かずおは恐怖漫画の巨匠だが、小学生時代の自分は、リアルタイムでは『まことちゃん』以外の楳図作品を読んでいなかった。

にもかかわらず、ギャグ漫画であるはずの『まことちゃん』に対して僕は常に、得体の知れない仄暗さ、不気味さを感じていたことがいまだに強く印象に残っている。

おそらく僕と同年代の人の多くは、同様の感覚を抱きながら『まことちゃん』を読んでいたに違いない。

『まことちゃん 1巻』(小学館、1995年)
『まことちゃん 1巻』(小学館、1995年)
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まことというキャラクターは常識を逸脱した存在だった。

ギャグ漫画の主人公が常識外れであることは当然と言えばそれまでだが、まことは「非常識キャラクター」という枠にさえ収まらない異常性を持っていたのだ。

彼の行動の多くは、普通の子供のいたずらや無邪気さをはるかに超え、「不気味」ともいえる領域に達しているようにも感じた。

しかしそれは、まことが過剰なほど天真爛漫であることに由来するものでもあった。

今考えてみるとそれは人間の根底にある「リビドー」、つまり性衝動を生む本能的エネルギーが表に出ていたのではないかと思う。

まことは人間の内側に潜むリビドーを象徴するキャラクターであり、その制御できないパワーがギャグの枠を越え、思春期前の僕にはわけのわからない不気味なものと感じられていたのだろう。