19歳でスター選手を引退に追い込んだ横田利美が背負ったもの
「ジャッキーさんは、リング上も私生活もとてもきっちりされた方で、私物を人に持たせたりしません。
私は付け人として歌う際の衣装を運んだりが主な仕事で、私に買い物へ行かせたり、無理な練習を強いることは一切ありませんでした。そんなジャッキーさんの背中を見て私はプロレスラーになっていったと思います」
今も感謝する偉大な先輩との試合は、横田がジャッキーを押さえ込んでフォール勝ちした。この敗戦が引き金となり3か月後の5月21日にジャッキーは、23歳で引退する。
現実と同様の試合がドラマでも再現されているが、43年前の試合をジャガーは回想した。
「あの試合があったから今のジャガー横田があると63歳になった現在は思えます。だけど、当時、19歳の横田利美にはそんなこと思えなかった。
あの試合で私は勝てるタイミングが来たら必死に押さえ込むことだけしかできませんでした。戦いですから、どうにか勝って終わりたいから勝負を決めようと思って必死で押さえ込みました。
ただ、試合が終わって、あれほど偉大なジャッキーさんに勝って引退に追い込んでしまったことは、当時の私にとってつらいことでした。
勝った瞬間は負けなかった安堵感だけ。次に襲った感情は『勝ってしまったぁ…』っていうバツの悪さでした。その嫌な思い、つらさは、同期にも先輩にも後輩にも相談できなかったんです。
プロレスラーは、何があってもすべて一人で受け止めて一人で乗り越えないといけません。デビュー4年目で19歳の私が抱えたつらさが想像つきますか?
ドラマは、フィクションと掲げていますし、物語だからいろんな作りをしても構わないと思います。ただ、私が現実に抱えたつらさ、心情は理解していただきたいと思います」
ジャッキ―佐藤は、1999年8月9日に胃がんのため41歳の若さで亡くなった。
「ジャッキ―さんは、私に負けた後も怒り出すこともなく私には何も言いませんでした。負けたほうは何も言わないものです…本当にスターでした。
本音は、私みたいなダサイ後輩に負けて『はぁ?』とショックだったと思います。ただ、今は亡くなられたので話すこともできませんから…」
ジャッキーへの思いを打ち明けたジャガー。『極悪女王』の中で頻繁に使われているあるセリフに言及した。後編へつづく
〈後編〉「ブックなんて言葉は知らない」話題の『極悪女王』をジャガー横田がブッタ斬り
取材・文/中井浩一 撮影/佐賀章広