繁殖業者の多くは経験だけをもとに繁殖を行うケースが多い

こうした基準を定める一方、繁殖業者の技術向上のための講習会を「AHBブリーディングシンポジウム」と題して、全国で開催している。

2015年5月20日には、名古屋市千種区の「吹上ホール」で開催、犬や猫の繁殖業者ら延べ約160人が参加した。川口雅章社長のあいさつには、業界の置かれた状況への危機感があふれていた。

「私どもを取り巻く環境にはアゲンストの風が吹いています。それは今後も厳しくなっていくのではないかと思っています。でも本来、そうあらねばならないのです。業界の慣習などを、私たち自身が改めていかなければならないと、考えています。その際、動物たちの健康と安全が一番大事なことです。健康な子があふれ、一方でかわいそうな命を少しでも減らしていくために、一つ一つ問題をクリアしていきながら、10年後、20年後にも社会に認められる存在でありたいと思っています」

講師を務めるのは、日本獣医生命科学大学の筒井敏彦名誉教授(獣医繁殖学)のほか同社所属の獣医師ら。「猫の繁殖の特徴」や「犬の正しい繁殖」、「遺伝子検査の実用化」などをテーマに、プログラムが1日かけて進んでいった。

写真/Shutterstock ※写真はイメージ
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繁殖業者の多くは経験だけをもとに繁殖を行うケースが多く、獣医学に基づいた手法に接する機会はほとんどない。それだけに熱心にメモを取る姿が散見され、また質疑応答も盛り上がる。

シンポジウムで長く時間を割くのが、遺伝性疾患について。ここでも同社の獣医師が、失明につながる病気「PRA(進行性網膜萎縮症)」を例に取りながら「アフェクテッド(原因遺伝子を持っていて発症する可能性のある個体)は繁殖に用いるべきではありません」などと丁寧に説明していく。筒井名誉教授は、シンポジウムで遺伝性疾患について時間を割く意義をこう話す。

「大学付属病院で犬の遺伝性疾患を長く見てきた。『日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い』と言われる。そうした犬たちがどのように生産されているのか常々気になっていた。健康な犬猫を世の中に出すべきだと考え、ブリーダーへの指導を行っている」

同社はこの年、全国6会場で同様のシンポジウムを展開。延べ約1000人の繁殖業者らに犬猫の繁殖方法や遺伝性疾患についての情報提供を行った。

文/太田匡彦

『猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち』(朝日文庫)
太田 匡彦 (著)
『猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち』(朝日文庫)
2024/9/6
792円(税込)
304ページ
ISBN: 978-4022621016

太田さんが執筆されたこの本には、
今の日本における動物愛護・保護の現状が全て記されています。
教科書レベルと言っても過言ではないかと。(解説より)
——坂上忍


猫は蛍光灯を1日12時間以上あてると、年3回は産める──。
人の都合で無理な繁殖、病を招く交配、幼くても出荷、「不良在庫」を引き取る闇商売……。
「かわいい」の裏側でビジネスの「奴隷」となる犬や猫たち。
凄惨な実態を、信念の取材が暴く。
《解説・坂上 忍》

【『「奴隷」になった犬、そして猫』に第5章・第6章を大幅加筆し文庫化!】
〈目次〉
文庫版まえがき
第1章:猫ブームの裏側、猫「増産」が生む悲劇 
第2章:「家族」はどこから来たのか、巨大化するペットビジネス 
第3章:12年改正、あいまい規制が犬猫たちの「地獄」を生む 
第4章:19年改正、8週齢規制ついに実現 
第5章:数値規制をめぐる闘い 
第6章:アニマル桃太郎事件から、5度目の法改正へ 
終章:幸せになった猫 
文庫版あとがき 
解説:坂上 忍 

※本書は、文庫化に際し『「奴隷」になった犬、そして猫』を改題し、大幅に加筆・修正したものです。

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