無批判に冤罪を信じているんじゃないかと思われるようなら…

━━報道されていた頃の贅沢な暮らしぶりから一転していたことに驚きました。映画の中で彼が「400円超えたら、もう買われへんよなあ」とこぼしていたのは?

彼はトマトが好きで、よくパック入りのものを買っていて。だけど値上がりしたから、もう買えない、という話ですね。

━━何度も会って話を聞かれている中で、記入済みの離婚届を見ている場面が印象に残りました。親戚の人が、暮らしの面倒を見てやってもいい。ただし、離婚が条件だと言われてたようですね。

名前は眞須美さんが二人分書いていて、あとはハンコを押して出せばいいというものでしたよ。

━━保険金詐欺の手口もそうですが、そうしたプライベートに関わる話までよく撮れましたよね。

離婚のことは、何十回か通った中での話でした。撮影自体は取材を重ねてからですけど、カレー事件や保険金詐欺の話は何回もされる。その都度、「これはどうなんですか?」と訊いても、ブレがないんですね。

林眞須美に会いにいく、林健治氏と長男。(C)2024digTV
林眞須美に会いにいく、林健治氏と長男。(C)2024digTV
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━━詐欺の手口も落語のネタのように話す。不思議な感覚に陥りました。

彼にとっては、誰かを直接傷つけたわけではないから、という意識があるのだと思います。自分の身体を使って保険金詐欺を働いたんだというだけで。

━━東京ばな奈の話などをうかがっていると「いいおじいちゃん」に思えてくるんですが、取材の密度が深まるにつれ、フラットな視点を心掛けられながらも取材対象との距離の取り方は難しくなっていったと思うのですが。

映像としては、あくまでフラットに撮るということを心掛けていたので、もしこれを観た方に無批判に冤罪を信じているんじゃないかと思われるようなら、そこは映画として上手くいっていないのかもしれませんね。

〈後編へつづく:『和歌山カレー事件、林眞須美の「死刑」判決の真実はどこへ? 「報道の過熱によって、見えるものが視えなくなっていった」』〉

取材・構成/朝山実 サムネイル/(C)2024digTV

映画『マミー』
8月3日(土)より東京 シアター・イメージフォーラム、大阪 第七藝術劇場ほか全国順次

林眞須美の長男が誹謗中傷にあい、一時は映画公開中止の危機も…和歌山カレー事件を追った映画『マミー』、眞須美の夫・健治氏が出した「取材を受ける条件」とは…_6

監督:二村真弘
プロデューサー:石川朋子、植山英美(ARTicle Films)
撮影:髙野大樹、佐藤洋祐 
オンライン編集:池田聡 整音:富永憲一
音響効果:増子彰 音楽:関島種彦、工藤遥
製作:digTV 配給:東風
2024 年/119 分/DCP/日本/ドキュメンタリー
(C)2024digTV