「こんなん言うのはアレなんやけど、お弁当を買ってきてくれへんかなあ」
━━亡くなられた人がいる事件だけに言い方は微妙ですが、人物ドキュメンタリーとしても傑出した作品だと思います。たとえば、林健治さんは保険金詐欺を働くきっかけについて「どんな味がするのか? ペロッとなめてみたんだ」と語る。子どもが悪さをしただけのような感じから1億円を超える保険金が転がり込んだことに味をしめ、詐欺を繰り返す。メディアで「眞須美に殺されかけた夫」と報道されもしたのに、実は自らの意思で保険金詐欺を繰り返していたという。二村監督は、暴露話をする林健治さんをどのように受け止めていたんですか?
私が、林健治さんの保険金詐欺に関する話を盛り込んだのは、単なる暴露話としてではなく、裁判の判決では彼が林眞須美さんに殺されかかった「被害者」となっているにも関わらず、その本人が真っ向から否定しているからです。
しかも彼の話す内容は詳細で、私は何度となく同じ話を聞き、質問を重ねましたが、決してブレることはありませんでした。それが裁判では「妻をかばうための虚偽」だと一蹴されているのです。この矛盾を感じてもらいたいと考えています。
━━会われてみての印象は?
2006年に健治さんは保険金詐欺事件の刑期をおえて出所したあと、和歌山市内でひとり暮らしを始めるんですね。メディアの人たちは、さんざん彼のことを悪く書いてきたので、取材を申し込んでも追い返されるにちがいないと思われていたみたいですが、訪ねて行くと「おお、よう来たなあ」と。
映画に出てくるあの調子で、どんどん話してくれるわけです。メディアに対してどう思っているのかを訊くと、「昔のことは昔のことやから」と言う。
━━コワモテな人物像を想像していたら、腰を抜かすくらいの「面白い、おっちゃん」という感じに見えました。
僕も、最初は警戒していました。ただ、長男を通して連絡したときに、ひとつだけ条件をつけられたんですよね。
━━それは、どんな?
「こんなん言うのはアレなんやけど、お弁当を買ってきてくれへんかなあ」と。
━━お弁当ですか?
彼はいま、十数年前に脳卒中を発症した影響で、(車椅子生活になり)ヘルパーさんにお世話してもらっているんですね。朝と夜はいいけど、お昼ご飯に困っているから近所のスーパーで買ってきてほしいと。
ほかにも、一度東京ばな奈を買っていったら、「あれ、デイサービスのヘルパーさんたちに喜ばれたんで、また買って来てくれへんかなあ」と。もちろん代金は払ってくれるんですよね。12個入り1800円くらいのを。