ラブストーリーに取って代わる新たな鉄板ジャンル
さて、そんな2000年代を受けて、現在の月9はというと、医療ものや推理・ミステリーものが増えてきている。
医療ものについては「コード・ブルー」や「ラジエーションハウス」などの人気シリーズのほか、上野樹里主演「監察医 朝顔」(2019〜2021)や波瑠主演「ナイト・ドクター」(2021)など、新たなブームを予感させるドラマも現れた。
そのほか、新月9のジャンルとして確立しそうなのが推理・ミステリーものである。「貴族探偵」や「シャーロック」(2019)を始め、竹野内豊主演の「イチケイのカラス」(2021)、そしてなんと2022年は「ミステリと言う勿れ」「元彼の遺言状」に続き、7月期には公正取引委員会を舞台にした「競争の番人」がスタート。3クール連続でミステリーものが続くのだ。
ドラマにおいて恋愛要素は不可欠と言えるほど、いわば鉄板のネタでもあった。それが、医療ものやミステリーものに取って代わられようとしている。月9枠において、いったい何が起こっているのか。
考えられる点として「時代の変化」と「ミステリーもののヒット」の2点を挙げたい。
1. 時代の変化
若者の恋愛離れが進んでいる。こう一言で書くと、あまりにも定型化しすぎだろうか。「若者の恋愛離れに関する一考察:恋人探しにみる先送り行動」(西村智 2016)を見てみると、人生における最優先事項は恋愛に限らないと考える若者たちの生態が、実によくわかる。
こちらの論文によれば、18歳〜35歳男女のおよそ8割が「いずれは結婚したい」とアンケートに回答していることがわかる。まったく恋愛に興味がないわけではなさそうだが、交際していても結婚に踏み切れない、もしくは交際すらしていないパターンが目立つという。結婚や出産・育児を視野に入れた際の経済的事情により、恋愛そのものを遠ざける例もあるそうだ。
王道のラブストーリーが世間に受けた1990年代は、男女ともに「早く結婚して家庭を築く」が普遍的なゴールとみなされる向きもあった。人生における恋愛の優先順位が高かったからこそ、時代を反映したラブストーリーが世間に受け入れられていたのかもしれない。
そう考えると、令和の時代にラブストーリーが受けにくいのも、推して知るべしといったところか。
2. ミステリーもののヒット
上記に挙げた時代の変化と合わせ、もう1点考えられるのが「ミステリーもののヒット」である。
月9枠とは異なるが、TBSドラマ「最愛」(2021)のコアなヒットは記憶に新しい。岐阜県の白川郷を舞台のひとつとしたサスペンスドラマで、放送されるごとにSNS上で考察合戦が繰り広げられた。ロケ地をめぐる、いわゆる”聖地巡礼ツアー”まで企画されたほどの人気ぶりだった。
また、同じ月9としては、菅田将暉主演で同名漫画を原作とする「ミステリと言う勿れ」のヒットにも触れておきたい。主人公・久能整の冷静な洞察力と、淡々としながらも人の心を温かくする名言の数々に、同じくSNSでは好評の意見が目立った。
ラブストーリーにおいて感情の機微を追うのと同等、いやそれ以上に、ドラマを見ながら謎解きをし、SNSで考察をシェアする一体感が重視される時代なのかもしれない。
これからの月9に寄せる期待
今後も月9におけるミステリーものの流れは続くと思われる。医療もののヒット作が出れば風向きは変わってくるかもしれないが、どちらにしろ、改めて純愛ラブストーリーが受ける時代が来るのは、もう少し先になりそうだ。
文/北村有