止まらない現代男性の精子数減少
不妊が増加傾向にあるなか、さらに追い討ちをかけるような事実があります。現代男性の精子の数が、減少しているというのです。
2017年、衝撃的な論文が報告されました。イスラエル、アメリカ、デンマーク、ブラジル、スペインの共同研究チームは、不妊ではない男性の精子濃度と総精子数が報告されている膨大な数の研究論文を精査し、これら論文に記載された大量のデータを解析しました。
このように複数の研究結果を統合して解析する統計手法のことを「メタ解析」とよび、膨大なデータ数を扱うことにより、個々の研究よりも正確で信頼できる結論を導き出すことができるため、近年注目を集めています。
メタ解析に用いたデータは、1973年から2011年にかけて収集されたもので、6大陸50カ国、4万2935人もの男性を対象としています。研究チームが、38年間での男性の精子濃度と精子数の推移を調べたところ、北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドの男性で、50〜60%も精子数が減少していたのです。
つまり、現代男性は、その祖父の世代に比べて、半分以上も精子数が減少していることが明らかになったのです。
この研究グループは継続的にメタ解析を実施し、2023年に新しい研究論文を報告しています。前回の論文で用いたデータは2011年までのものですが、新しい論文では2018年までの新しいデータを含み、さらに前回はデータ数が少なく信頼性のある結果が得られなかった南アメリカ、中央アメリカ、アジア、アフリカの男性のデータが追加されました。つまり、調査地域が広がり、また、より最近の男性の精子数を解析することができました。
新しい論文ではさらに驚く結果が報告されています。研究チームは、1年経つごとにどれだけ精子数が減少するか、精子数の推移を計算しました。
その結果、2000年までは1年ごとに1.16%ずつ減少していました。しかし、2000年以降はその減少スピードが加速しており、1年ごとに2.64%も減少していることがわかったのです。
そして前回の論文では、限られた国のみで精子数の減少傾向が見られていましたが、データが追加された新しい論文では、国・地域に限らず、世界規模で精子数が減少していることが明らかになったのです。