老犬ホームの費用は6ヶ月72万円~

そうしたこともあり老犬ホームにかかる費用は決して安くない。

THEケネルズ東京では、6ヶ月ごとの契約で預けた場合、7キロまでの小型犬で72万円、8キロから15キロまでの中型犬で90万円、16キロから30キロまでの大型犬で108万円 の費用がかかる。

さらに「軽度」「中度」「重度」の3段階の介護度によってプラスの料金が加算され、大型犬の重度の場合は72万円が基本料金に上乗せされる。

介護度によって料金が変わるのは、まるで人間の介護保険制度のようだ。しかし、犬の場合は元気で手のかかる介護犬よりも、老齢の犬の方が 大人しくて手がかからないケースもある。

その場合は「中度」あるいは「軽度」にランク付けされるというのが、人間の介護保険制度と異なる点だろう。

眠るミミちゃん
眠るミミちゃん

また、ペットの世界には介護保険制度が整備されていないため、民間の企業などがペットの医療や介護に関連する保険の役割を担っているのが現状だ。

「例えば、飼い主が亡くなった後、ペットを老犬ホームに預けるための費用を補償する商品を損害保険会社が作ったり、行政書士さんがペット信託を商品にしているケースもあります」(同)

ペット信託とは、飼い主が亡くなったときや、ペットの世話ができなくなったとき、信託制度を利用してペットにかかる費用を賄う商品だ。ペットは飼い主の遺産を相続できないため、「信託」という制度を使うことで、遺産をペットに使うことができる。

例えば自分の遺産を、老犬ホームの入居費、生活費、医療費、ケア費などに充てることを信託費用に設定しておけば、飼い主の死後もペットを老犬ホームが介護してくれるというわけだ。

将来、そのペットが亡くなった後は、残金を法定相続人に相続させることもできるし、動物愛護団体に寄付することもできる。

スタッフの背中を見つめる銀時くん
スタッフの背中を見つめる銀時くん
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このように、老犬ホームの周辺では、さまざまな民間ビジネスが生まれている現状がある。

ただし、人間の介護保険制度に比べて、ペットを取り巻く業界は、まだまだ法制度が整備されていないのが実情だ。

こうしたビジネスが加速する背景には、ペットだけでなく、飼い主も高齢化している事情が大きい。

後編では動物と人間の間にも広がる老老介護問題と、預けられた犬の最後を看取る老犬ホームスタッフの心境について聞いた。

取材・文/甚野博則
集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/Soichiro Koriyama